現在、2700万人の日本人が高血圧だと言われている。これは収縮期血圧(心臓が収縮したときの血圧)が130以上を「異常なし」としている現在の基準で診断した結果から算出された人数だ。
自身の臨床経験から、これより緩い基準で診断を行ってきている帝京大学医学部外科准教授の新見正則医師は、次のように話す。
「人間は薬によって血圧を下げる手段を得てから、血圧が低ければ低いほうがいいという考え方が普及し、高血圧と診断される基準もどんどん下がってきたのです。そして年齢も性別も体格も関係なしに、同じ基準を適用しています。しかし人間の体は一つとして同じではありません。ですから、本来はその人その人に適正な血圧があって、それより下げすぎるのはいかがなものかと危惧しています。一律の基準を当てはめることで、本来は病気でない人が病気、または将来的に病気を引き起こす危険性があるとして、たくさんの薬を処方されてきているのです」
さらに新見医師は、高血圧やメタボリックシンドロームの投薬治療は矛盾をはらんでいることを指摘する。
「血圧を下げる薬、脂質代謝異常を治す薬、糖尿病の薬を飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて痩せにくい。いずれも痩せれば解決する可能性が高いにもかかわらず、治すための薬を飲んで、治るチャンスをつぶしていると言っても過言ではありません。そもそも肥満を測るBMI値も日本の基準は厳しい。例えば身長170センチの人で考えると、WHOの基準と比べて日本の基準は15キロも低いのです。私は現在、肥満専門外来を行っていますが、その経験からすると、“ちょいデブ”が健康です。内臓脂肪は運動すればすぐに減りますし、食事で言えば炭水化物を少し減らす程度で改善されるケースがたくさんあるのです」
薬は全身を回る。治癒したい部分にピンポイントで届くわけではない。それゆえ、関係のない部分に“悪さ”をする可能性は大いにある。それが薬の副作用と呼ばれるもの。医師はその可能性を事前に患者に伝え、不安や疑問があれば、しっかりと受け止めて、患者が納得したうえで服用するプロセスが必要だと新見医師は言う。
「薬を飲むのが正しいのかどうか、WHOの基準か日本の基準かどちらが正しいのか、実は誰にもわかりません。私も自分の経験則でもって治療をしているにすぎませんから。つまり、医療は常に“壮大な人体実験”の途中なのです。医療の世界では、絶対に正しいことと絶対に間違っていることはある程度わかっていますが、その間のグレーゾーンがとても広い。ですから個々の治療や薬について、良いところも悪いところも知った上で、自分の人生にとって最適な治療を選ぶ。そうすれば、きっといい人生が送れるのではないでしょうか」
賢い患者になろう。死んでから後悔しないために。