ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「アイドル」について。
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「アイドル」とは職業や肩書ではなく、社会が作り出す「事象・現象」、そして何よりもアイドルに成り得る本人の「体質」だということは、この連載でも再三書いてきました。とは言え、今やアイドルは一(いち)ビジネスとして確立され、「アイドル研修」「アイドル活動」「アイドル廃業」なんて言葉も違和感なく通じる世の中。先週取り上げた中居正広さんのように、体質的・現象的・職業的にも正真正銘のアイドルが、自身の「アイドル・アイデンティティ」をコントロールすることには何の問題も感じませんが、どう見てもアイドル的素養を満たさない人が、自ら「アイドル」の看板を掲げていたり、アイドル的文脈で扱われていたりするのを見るにつけ、「アイドルはスタイルじゃない!」と声を荒らげたくなります。
アイドルが誕生する時というのは、その当人は至って無自覚なことがほとんどです。もしくは「自分は選ばれし人」だと潜在的に理解しているか。自ら進んで「アイドルです!」などと名乗りを上げる人にアイドルポテンシャルがあることなど滅多にありません。かつてのアイドルに「友達のオーディションに付き添いで行ったら自分がスカウトされた」ケースが多かったのもその証拠です。数年前に竹内まりやさんのコンサートに行った際、曲間のMCでしきりに「私はそんなつもりはなかったのに、気付いたらデビューが決まり、気付いたらアイドル路線で売り出され、気付いたらシンガーソングライターになっていて、気付いたら40年近くこうして活動を続けています」と言っていたのが印象的でした。自分はさほど望んでいないのに、周りが黙っていなかった。これこそがアイドルの絶対的条件なのではないでしょうか。