岩田:クルーズ船内の感染事故は、これまでも何回もありました。ただ、あの規模のケースは世界でも初めてですね。3500人が閉鎖環境に密集するクルーズ船は「3密」の典型。極めて感染が広がりやすい環境です。政府も対応に悩んだと思います。
日本は14日間の検疫期間をとって、船内に乗員・乗客を全員とどめるという選択肢をとりました。14日間というのは、コロナに感染してから発症するまでの最大期間です。その戦略をとる以上、「新しい感染者を出さない」「感染者と未感染者を分けるゾーニングを厳格にする」というポリシーを徹底する必要がありました。が、それがまったくできていなかった。
内田:感染を防ぐには、感染経路を遮断するしかない。
岩田:そのとおりです。ウイルスは目に見えないので、「ここは汚染されているレッドゾーン」「ここはウイルスが一匹もいないグリーンゾーン」と意識的に線引きすることが必要です。汚染ゾーンにスタッフが入る場合には、感染を防ぐためにマスク、ゴーグル、防護服を着なければなりません。防護服の表面はウイルスで汚染されますので、逆にグリーンゾーンでは「防護服は着てはいけない」んです。
内田:なるほど。
岩田:DP号は線引きがどちらも中途半端で、グリーンゾーンで防護服を着たり、スタッフがレッドとグリーンを行き来したり。厚労省の副大臣が写真をSNSにアップして炎上しましたが、レッドとグリーンの入り口が同じでしたよね。
内田:あの写真は衝撃でしたね。現場のトップがゾーニングの意味を知らないということを露呈したわけですから。
岩田:入った瞬間に「これはあかん」とわかりました。アフリカでエボラ出血熱の対策をしていたときよりもずっとひどい状況で、下水道と上水道が混じった水道からコップに水を汲んで、目の前で飲んでいる人を見たときのような感覚でした。ゾーニングは概念なので「船の上だからできない」ことはなく、粘着テープ一本でできます。DP号では700人以上の感染者が出ましたが、この失敗は間違いなく将来、感染症の教科書に掲載され語り継がれるはずです。
(文・構成/大越裕)
※AERA 2020年4月20日号より抜粋