「実務的な視点で見れば、やりましょうと言ってすぐやれるレベルの話ではありません。過去、文科省ではすでに何度も検討して見送った経緯があります。正しく適用するには、多額のお金と長い時間を要する。きちんとした検討を経ないまま勢いで物事を進めれば、そのしわ寄せは、子どもたちにきます」

 まず、すでに全国各地で授業を再開している学校が多数あるにもかかわらず、一律に対応させようとする点に疑問を呈する。

「(次の9月から適用すれば)つつがなく学校に行けている子たちを、無理やり入学させ直すことになります。もう一度学校に入り直さなければいけないという事態を、はたして子どもや保護者は望むでしょうか」

 また、現行の学校教育法では、義務教育開始の下限年齢が「6歳0カ月」と規定されているため、学齢を「6歳5カ月」に引き上げるための法改正が必要だという。法改正せず6歳0カ月から受け入れた場合、初年度は(誕生月が)17カ月分の生徒が入学することになる。

「生徒が4割近く増える分、その年だけ教師を余計に配置しなければならない。教育費も膨れ上がります」

 小学校低学年の児童は数カ月の違いで発達段階に差が出るため、半年ずらすだけでも学習に影響が出るという。その対応として「カリキュラム自体を変更するなどの配慮が必要だ」と指摘する。

 小学校だけではない。9月入学にした場合、大学では5カ月間、新1年生がいないことになるため、大学側の収入が絶たれる。こうした収入減に対する補償を含め、多額の費用がかかるという。

「国や地方自治体の支出が、一時的に大きく増えるでしょう。少なくとも1年あたり数千億円かかるのではないか」

 では、これから政府が最優先させるべきことは何か。前川氏は「まず学校の再開に全力を傾けるべきだ」と話す。

「今は子どもの『教育を受ける権利』、つまり人権が侵害されている状態です。学校は『休業補償』がいらないため、政府は安易に休校に踏み切りましたが、子どもが教育を受ける機会を失うという、お金に換算できない損失が発生しています。学校を閉めるのは、本来は最終手段のはずです」

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9月入学に賛成する教育関係者も