計5万6千枚の一般用使い捨てマスクの取引現場。ブローカーは4月下旬に1枚あたり50円で買い付けたが、大型連休明けには原価割れを起こした/東京都内(撮影/編集部・大平誠)
計5万6千枚の一般用使い捨てマスクの取引現場。ブローカーは4月下旬に1枚あたり50円で買い付けたが、大型連休明けには原価割れを起こした/東京都内(撮影/編集部・大平誠)
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 N95など医療用の高性能マスクは、まだまだ入手しにくい状況が続いている。SOSを出す病院も現れるなか、窮地を救おうとプロジェクトが動き出している。AERA 2020年5月25日号では、その実情を伝える。

【写真】N95タイプの代表格で、最も高値で取引されるという米3M社の「1860」

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 そもそもN95とは米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の規格で、直径0.3マイクロメートルの微粒子を95%以上捕集する能力がある。また、微粒子捕集効果の高いKN95という中国の規格もあり、米国疾病対策センター(CDC)はN95が不足した場合の代用品になるという見解を示している。

 一方、一般的なサージカルマスクは「手術用」として患者の体液や血液の飛沫を遮断する能力があり、米国には食品医薬品局(FDA)の規格、欧州にはEU加盟国へ輸出する際のCEという規格がある。日本にはサージカルマスク、医療用マスクともに規格がなく、N95タイプは防塵機能に優れた産業用のDS2という規格が最も近いとされている。

 密着性が高く長時間の装着には不向きなN95タイプは用途が限られており、普段から感染症対策が求められる医療現場で実情に応じて購入、備蓄されていただけで、政府も需要統計などのデータを持っていない。ところが今や町の診療所に至るまで、新型コロナ感染対策のためこうした高機能マスクやゴーグル、防護服が必要になった。需要の爆発に供給が追いつかない。厚生労働省マスク等物資対策班の担当者は言う。

「日本での規格が定められておらず、使いたい人が買って使いたい場所で使うという形だったので、平時の年間需要も100万に届かない数十万枚のレベルかなというぐらいしかわかりません。今の需要は平時の数倍にはなるのかなというのが大まかな見積もりです」

 同対策班は4月下旬までにN95、KN95タイプ約10万枚を東京都など7都府県を中心に発送し、さらに追加で約150万枚を各都道府県に発送予定だが、個別の医療現場までは到底行き渡っておらず、全国から悲鳴が聞こえてくる。

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