春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
この記事の写真をすべて見る
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「定年延長」。

【画像の続きはこちら】

*  *  *

 この『定年延長』というお題を出されたのが5月16日だった。掲載される6月2日発売号までずいぶんあるなぁ。

 たしか5月9日あたりから、SNSで著名人による「#検察庁法改正案に抗議します」が話題になって、きゃりーぱみゅぱみゅに難癖つける人が現れワーワー言いつつ、政府が今国会での法案の成立を諦めたのがその数日後。その最中、朝の犬の散歩を趣味とする黒川さんは元朝日記者と産経記者との賭け麻雀発覚。麻雀の翌朝は散歩はしなかったのかなと心配してたら、あっという間に黒川さんは辞任なのである。「余人をもって代えがたい人」だったのにあっけなく辞めちゃった。でも「テンピンでレートが低い」からって無事に訓告処分で済んで、退職金6千万円近く支払われるかもしれないらしい。森法務大臣が首相に進退伺を出したけど、強く慰留され、やっぱり辞めるの辞めたり、半泣き(のように見えた)で答弁したりしつつ。いつも通り「責任は私にある」と言いながら、まるで責任をとらない安倍さんの十八番が飛び出して。そうかと思うと、我が家には定額給付金の申請書がいまだに届かない現在、5月23日なのである。

 いろいろ「やれやれ」な出来事ばかりで目まぐるしくて吐きそうです。おまけに掲載日の6月2日まで一体何があるかわからない。東京の「緊急事態宣言」もどうなるかわからないし。そろそろ『定年延長』について書かねばな、と思いながら1週間経っちゃった。完全に旬を逸して、いまだ手つかずだ。

 そんな時は、何も考えずにBSフジ『クイズ!脳ベルSHOW』を観るのがよろしい。「40歳以上の著名人が解答者」という、脳トレや懐かしネタを主とした個性的なクイズ番組だ。このご時世、新たにスタジオ収録出来ないようで、その日は「80オーバー大会」の再放送だった。

 解答者は小桜京子、藤巻潤、ロミ・山田、そして落語界からは我らが三遊亭金馬師匠の御年89(当時)! 2年前の再放送が出来るということは解答者の皆さんは今現在も無事でご存命。よかったよ。だから、不正解だろうが、問題が聞こえなかろうが、手が震えてボタンが押せまいが、誰が優勝しようが、もうどうでも良くなってくる。生きてるって素晴らしい。「芸人には定年がなくていいな」なんて呑気なことを思ってみたが、とある師匠が言っていた。「定年はないが『落ち目』がある」と。「定年はないが『定年同然』になることはある」と。

 その師匠の言葉が、見事に当たっちゃった。コロナ禍で我々芸人の『定年同然』の日々が3カ月続いてます。世間は少し動き始めたが芸界はまだまだお先真っ暗。仮に興行界が始動しても、客席の3密を防ぎながらやると確実に商売が成り立たない。

 文句だって言いたくなるところへ「政治的な発言は控えろ」? 「勉強してからモノを言え」? 大きなお世話だ、バカヤロウ。こちとら給付金の申請書より税金の支払書が先に届いてイライラしてんだ。頭きたからすぐに払ってやったよ。納税している「河原乞食」に怖いものなどないのだ。

 いまの『定年同然』の延長だけはなんとか食い止めなければ。6月です。もう限界。退職金、羨ましいぜ。

週刊朝日  2020年6月12日号