克行議員は犯罪、事件を「ドブ」という言い方で示した。いま、自らにかけられた容疑も「ドブ」ということになる。そして、こう続けた。

―――国民一人ひとりのそれぞれが、人生をそれぞれに送っている。順調な人生もあれば、逆境からなかなか這い上がれない過程にいる人もいるだろう。そこには、妬みや恨み、嫉み、憎悪といった感情が生まれ、いわゆる「事件」が生じる。―――

 克行議員には有権者を買収したという疑いがかかっているが、妻を「這い上が」らせるために「事件」が生じてしまったのか。

 克行議員は、ドブの中のゴミさらいの仕事の重要性を説く。

―――社会の最低限の規律・法律の範囲におさまらない言動が生じる。ゆえに、社会総体としてみれば、どうしても「ドブ」のような暗い部分が生まれる。それは否定しがたい事実である。だからこそやむを得ず、その「ドブ」の中のゴミをさらい、ドブを浄化し、社会福祉の向上を図る人が必要になる。―――

 そして、「ドブを浄化」する法曹界の意義、役割をこう訴えている。

―――これは世のため、人のためを思う人間でなければできない仕事である。これほどの高邁で尊い仕事をできる職業は、世の中にそうない。そして、その手助けを行う実施部隊こそが、法曹界なのではないか。――

(以上の引用はすべて『前法務副大臣が明かす 司法の崩壊』、192~193ページから)

 克行議員は「高邁で尊い仕事をできる職業」の「実施部隊」の責任者である法務副大臣になり、最高責任者である法務相になりたかったのであろう。

 今回、克行議員を公職選挙法違反の疑いで取り調べている検察官のうち、20代、30代の多くは法科大学院修了者である。克行議員は彼らを「粗製濫造」と非難し、無罪を主張することになるのだろうか。それに対し、さんざんこき下ろされた法科大学院を修了した若手検察官は、「ドブを浄化」するために徹底的に真相究明をするのか。

「事件」の一部始終を詳らかにしてほしい。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫

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