そして宮沢氏は、昭和の戦争の話を始めたのだが、最初に「昭和維新」という言葉を使った。欧州各国や米国は、アジアの国々を植民地にしてきた。それを日本が独立させ、解放しようとしたのが昭和維新だというのである。だが、軍部が独走して、満州事変や日中戦争になり、ついに太平洋戦争で自滅してしまった。

 敗戦後、米国から憲法を押し付けられた。こんな憲法下ではまともな軍隊は持てないとして、日本の安全保障は米国に責任を持たせ、憲法を逆手にとることで米国の戦争に巻き込まれるのを回避してきた。たとえば、ベトナム戦争のとき、米国は自衛隊を出せと言ってきたが、「こんな憲法を押し付けたから、行くに行けないではないか」と抗弁して行かなくて済んだ。そのために戦後70年以上、日本は戦争を回避できた。

 経済に全力で打ち込んでこられたので、田中、中曽根康弘、小泉純一郎の各首相、そして民主党政権もこの「宮沢理論」を踏襲してきたのだが、トランプ大統領になって米国の姿勢が一変した。日本のことなど構っていられない。憲法を変えるなら勝手に変えて、自分の国は自分で守れ、と言いだしたのである。

 トランプ以前の米国大統領は、いずれも「パックス・アメリカーナ」、つまり世界の秩序、平和を維持するのが米国の役割だ、と言い続けてきたのだが、トランプ氏は世界のことなどどうなってもよい、米国さえよければいいのだ、と公言して大統領に当選したのである。

 宮沢理論が通用しなくなった今、日本の安全保障をどう捉えるか。真剣に考えなければならなくなった。

週刊朝日  2020年7月3日号

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