人生はわからないものです。僕は当初、高校を卒業したら早稲田大学に進学して野球をやるレールの上に乗っていた。最後の夏の甲子園に行っていれば、大学に進学していたと思う。だけど、甲子園に行けなかったことで、「本当にこの敷かれたレールの上を走っていていいのか」と考えるようになった。プロ入りに気持ちが傾きました。それがあったから、その後の僕の野球人生があるわけです。

 大学野球であれば、すぐに結果だけを求められることはなかったでしょうが、いきなり大人の世界であるプロに入ったわけですから、苦労しました。いろんな失敗をしながら、野球だけではなくて、さまざまな人生経験ができたと思っています。

 高校時代に培った「勝つためにどうするか」というものの考え方は、卒業後も役に立ちましたね。甲子園を目指していましたから、勝つためにいつも突き詰めて考えていました。

 球児たちにとっても、高校野球で培ったものは人生の土台となるのは間違いありません。どこの道を歩もうとも、絶対に役に立つ。自信をもって、自分の道に進んでもらいたいですね。

 3年生たちには卒業しても「自分にハングリーであれ」といいたいです。自分に物足りなさを感じないといけない。満足してしまって、それ以上頑張ろうとしなくなったらアウトです。

 僕はプロ野球時代、3試合に1本、年間43本ホームランを打つことを目標にした。これは自分の過去を振り返りながら「この数字を打てば自分の仕事をしたことになる」と決めた数字です。本塁打王になろうがなるまいが、他人がどう評価しようが、関係ない。自分としてよくやったと言える数字を設定しました。

 こうした自分なりの目標を常に設定して野球をやってきました。乗り越えられるか、乗り越えられないかは別にして、それをやらないと人間は成長できないと思っています。

 3年生はこれからそれぞれの人生を歩んでいくと思います。進んだ道によってその世界なり、自分なりに課題が出てくるでしょう。そこでどういう方向に向かっていきたいか、自分なりの目標をしっかりと立てて、目の前の道を切り開いていってほしい。

 今回の悔しさをバネにして、自分の信じた道を頑張ってください。失敗を恐れず、これからもチャレンジし続けてほしいと思います。

●王貞治さんのプロフィール
1940年、東京都生まれ。59年に早稲田実卒業後、巨人に入団。現役生活22年間で868本の本塁打を放ち、世界記録を持つ。84~88年に巨人監督、95~2008年にダイエー(05年からソフトバンク)監督を務める。

構成:本誌・吉崎洋夫

週刊朝日増刊「甲子園2020」より

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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