理不尽な組織に主人公が敢然と立ち向かうドラマ「半沢直樹」に胸を熱くする人も多いだろう。今回の話の舞台は銀行ではなく保育園。コロナ禍の中、多くの保育士が不当に追い詰められている。半沢に続けといわんばかりに、保育士の「倍返し」が始まった──。ジャーナリストの小林美希氏がリポートする。
園長職の解任──。それは、突然の辞令だった。
東京都内の保育園で園長として働く川上恵子さん(仮名・50代)にとって、とうてい納得のいく人事ではなかった。
恵子さんが勤めるのは、ここ数年でグループが急拡大した保育園運営会社X。恵子さんは人事を言い渡された翌日から保育園に行くことを禁じられ、業務の引き継ぎもできないまま本社への出勤を命じられた。役員らに監視されるなか、本社で「あなたはどのように会社に貢献するか」などのテーマでひたすら作文を書かされる“飼い殺し”の日々。いったい、恵子さんの身に何が起きたのか。
話は今年4月に遡る。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されると、全国の自治体が保育園の「臨時休園」あるいは「利用の自粛要請」を行った。
登園する園児数が普段の1~3割程度になると、保育園側もそれに見合った人員体制に縮小。自宅待機命令を受け休業した保育士は少なくなかった。
コロナの影響で休業者が出ると見込んだ内閣府は、2月末という早い段階から「保育士の収入が減らないように」と、人件費を含む運営費を通常どおり給付する特例措置をとっていた。ところが、この特例が一部の事業者に“悪用”された。運営費を満額受け取っておきながら、保育士に対しては「ノーワーク・ノーペイ」の原則を振りかざして無給、あるいは労働基準法に違反しない最低限の6割の給与で休業補償するという問題が起こったのだ。給与をカットするほど事業者の“儲け”となるというわけだ。
Xグループの休業補償は、正社員が月給の満額なのに対し、パート社員は予定として組まれたシフトに対して実質6割。ところが、5月のシフトが問題になった。同じパートでも、保育士資格がない社員は「シフトから外すように」と本社の指示があったのだ。それは「無給」を意味した。