山口:3月10日にホリエモン(堀江貴文氏)の六本木ヒルズの自宅が強制執行されて、テレビやゴルフバッグが差し押さえられたって話、どう思いますか? 新聞記事には、原告側弁護士の話として「最近ホリエモンのマスコミ露出が増えて、苦々しく感じている」「被害者が忘れ去られている」「事件を風化させないため」とか出ていたけど、なんか違和感を感じるよね。

上杉:これは、いわゆるライブドア事件でライブドア株が暴落して、損をした株主が、堀江さんら旧経営陣や会社を相手取って起こした集団民事訴訟で、一審勝訴した原告の一部が債権を回収しようとして行ったことなんです。ただ、旧経営陣は他に何人もいるのに、強制執行が入ったのは堀江さんだけのようですね。債権を確実に回収しようと思えば、会社(LDH=旧ライブドアホールディングス)に行けばいいのに。そう考えると、堀江さんが狙い撃ちにされたとしか言いようがない。

山口:それは、最近ホリエモンが上杉さんと親しく付き合っているからかな?

上杉:違うって。(笑)

●事件を作り出す検察モンスター

山口:結局、これは一連の小沢捜査にも共通することなんだけど、世間では「堀江=巨悪」っていうイメージがかなり定着してるってことだよね。ご存じのように、週刊朝日では彼のコラムを連載しているけど、いまだに編集部には「何で犯罪者の連載なんかやってんだ」みたいなお叱りの声が来ますから。あ、これ本人にはナイショね。(笑)

上杉:それは私が繰り返し言っているように、事件の本質を正しく伝えないメディアの責任です。そもそも刑事事件のほうは現在、堀江さんが上告中で、結論が出ていない。「推定無罪」はどこへいったのか。

山口:いや、この国には「推定無罪」など端からないと思ったほうがいい。とくに特捜検察の捜査には、この刑事司法の原則がまったく通用しない。特捜部が動き始めただけで、ターゲットになった人物は限りなく「クロ」と見なされる。逮捕されたら即「犯人」で、起訴されたらもう「有罪」。この風潮をつくったのは、上杉さんの言うとおり私たちの責任だと思う。

上杉:ライブドア事件とは何だったのか。ほとんどの国民は理解していないでしょう。信じられている堀江さんの罪状は、インサイダー取引、マネーロンダリング、脱税による不正蓄財、果ては暴力団との黒い交際とか。そしてスイスの銀行に巨額の隠し資産があるなんて話も(笑)。これらはみんな、記者クラブメディアによる世論誘導でした。

山口:未成年との淫行疑惑なんてのもあったしね。

上杉:でも、実際に刑事裁判上、堀江さんが問われているのは「偽計及び風説の流布」と有価証券報告書の「虚偽記載」というふたつの証券取引法違反だけ。前者は、買収した会社の評価額を不当に水増ししたということですが、判決では堀江さんが水増しを命じたことは明確に否定されています。ただ、社長として取引の実態を知らなかったはずはないという理屈で有罪に。後者の虚偽記載は、わかりやすく言うと、入金されたキャッシュについて、資産と書くべきところを、利益が出たと書いたという話なんです。それは厳密に言えば違反ということになるのですが、世間が思っている脱税のような重大犯罪でないことは明らか。また、粉飾総額が2千億円を超えたカネボウのように破綻状態を覆い隠すための悪質な粉飾決算とは、性格もまるで違うものなんです。

山口:カネボウなどかつて粉飾決算で挙げられた企業と違って、ライブドアの経営状態は当時、非常によかった。そこで冒頭の株価暴落の“被害者”問題だけど、なぜ株が暴落したかというと、検察がガサ(家宅捜索)に入ったからでしょう。通常、この種の上場企業への強制捜査は株価への影響を最大限考慮して、金曜日の市場が閉まった後にやるはずなのに、東京地検特捜部は月曜日の午後、テレビカメラを引き連れて六本木ヒルズに乗り込んだ。これがニュースで流れ一般株主のパニック売りを誘発し、おまけに東証がシステムストップで大変なことになったわけです。何十万人という株主に大損をさせたという意味での、ライブドア事件の“主犯”は、間違いなく検察だと思うんですね。

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