上司としては定時に帰る日があってもいい。ただ、仕事でがんばっている情熱を感じることがあればいい。その情熱で必要に応じて残業も厭わない姿勢を感じれば、戸惑いは大分解消する、ということなのでしょう。定時に帰ることが、仕事に対するモチベーションの低さと相まっているように思えているのかもしれません。

 ちなみに、定時に帰ることに対して部下たちはどのような感覚をもっているのでしょうか?

 アンケートや個別のインタビューから読み解いていくと「気まずい」と感じている人は意外と少なく、淡々と気にしていない人が多数を占めているようです。20年前であれば気まずいと感じる人が多数派であったと思われるので、状況は変わってきたようです。

 一方、若手社員の仕事に対するモチベーションは下がっているのかというと、そうともいえません。インタビューをしてみると、仕事を通じて成長したい、仕事に対して意欲的に取り組みたいというモチベーションが高い若手が多いように思います。

 取材したFさんと同じ会社で働く若手社員のGさんは、定時に帰ることもあるタイプですが、仕事に興味が薄いことはなく、退社後にビジネススクールに通い、マーケティングに関するスキルを磨いていました。さらにやりきれなかった仕事があれば、上司より早く出勤してそれをこなす時間もつくっているとのこと。会社の勤務時間以外でも自己研鑽や明日に向けた準備をしていたのです。

「将来的には自分で大きな提案ができる立場になりたい。そのために勤務時間は集中して取り組んでいきたい」と熱く語ってくれました。話を聞いていて、上司のFさんよりもモチベーションは高いくらいと感じました。

 ちなみにGさんは若手で珍しいタイプではありません。同じように高いモチベーションを持ち、上司とは違うアプローチで真摯に仕事に取り組む若手社員の話をたくさん聞きます。

 だとすれば、定時に帰る社員に戸惑いを感じたとしても、実際には大きな問題はないのです。上司は心配しなくてもいいのではないでしょうか?

 ただ、筆者は定時に帰る若手社員に対して、1つだけ気になることがあります。それは、組織の一員として自分がやるべきこともこなせたうえで帰っているのか?ということです。

 例えば、部内で分業して提案書を作成していたとしましょう。自分が任された仕事が終わったものの、先輩社員たちはたくさんの作業を引き受けて残業している。そのような状態であったとしたら「自分もお手伝いしましょうか?」とチームの仕事を補完する役割を担う意識が必要です。

 会社の仕事は各自に割り振られますが、元々は組織として期待された最終形があり、すべてができあがらないと提案書は完成しません。自分の仕事が終わったので定時に帰る若手社員を尻目に残業する先輩社員という構図があるとすれば、手伝う意識をもつことが重要です。

 組織の一員として仕事に取り組む。お互いに助けないながら仕事をする。成果が出ればともに喜ぶ。

 この前提において定時に帰れるときには帰るのであれば、上司の戸惑いも解消される気がします。組織の一員として仕事に取り組むことが若手社員も期待されていることをしっかり伝えることも大事ですね。

西野一輝(にしの・かずき)/経営・組織戦略コンサルタント。大学卒業後、大手出版社に入社。ビジネス関連の編集・企画に関わる。現在は独立して事務所を設立。経営者、専門家など2000名以上に取材を行ってきた経験を生かして、人材育成や組織開発の支援を行っている

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