基本トーンは、自分の意思を強く前面に打ち出しており、ポジティヴだ。だが微信のアカウントから発した文章が削除されたり、ブログが遮断されたりすると、弱気にもなる。「私はまるで弓の音に怯える小鳥のようだ。話していいこと、話してはいけないことの区別が、もうわからない。感染症との闘いは最重要事項だから、全力で政府に協力し、あらゆる指示に従う。私は拳を握って誓う。それでもダメなのか?」

 そうした弱気も含め、すべて書いている。そこがこの本の最大の強みだろう。「わずかな時代の塵でも、それが個人の頭に積もれば山となる」。著者の言葉だ。個人の日記は小さな力かもしれない。だがあらゆる形式を駆使して、みんなが記録を残せば、それが財産になる。著者の信念はその一点にかぎってはいっさいブレていない。いいことも悪いことも、情報として入手できたことはすべて書くのだ、と。

 当局からも一般読者からも激しい非難にさらされた著者に、恐ろしくなかったのか、と尋ねた人がいる。著者の言葉は明白。「平気です。何も恐ろしくありません。彼らのほうこそ、私を恐れるべきでしょう? 私はプロの作家で書くことが仕事ですから、彼らを恐れるはずがありません」

 これほど腹のすわった物書きに敬意を示したい。そのうえで、彼女の作品(フィクション)が、ほとんどまだ日本語に訳されていないことは悲しむべきことと思う。彼女の小説群が日本語に訳される日がはやく訪れることを祈りたい。それとも、本書を映画化するというのはどうか。観たい。

週刊朝日  2020年11月6日号