今もまだ残る古き良き店を訪ねる連載「昭和な名店」。今回は高田馬場の「ロマン」。
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「1969年に映画関係の仕事をしていた主人の父が脱サラをして、われわれ夫婦とこの店を始めました」と話す、喫茶「ロマン」のマダム、細井淑子さん。写真がNGなのは残念だが、70代後半とは思えぬ若々しい笑顔でお客さんをやさしく出迎える。
細井さんによると、開業当初のJR高田馬場駅周辺はいまのようにビルがなく、地元客や早稲田の学生が行き交う賑やかな商店街だったという。同じビル内にはボウリング場や東映の映画館があり、庶民のレジャースポットだったようだ。
「ロマン」の内装は、大阪万博に関係した新進気鋭のデザイナーが担当。斬新な内装として当時から話題となり雑誌に取り上げられた。何度か改装したが、昭和の面影を残すレトロな喫茶店として人気は色あせない。ホットケーキもいまどきの分厚いパンケーキとは異なる懐かしい表情。バターとメープルシロップが生地にしみて、ぺろっと2枚食べられる。
細井さんは正月休み以外は毎朝始発の電車に乗ってご主人と出勤し、終電で帰る日々を送る。「儲けるためにやってるんじゃなくて、社会とのつながりを持つために続けているんですよ」。若さの秘訣はここにあった。(取材・文/沖村かなみ)
「ロマン」東京都新宿区高田馬場2‐18‐11稲門ビルM2F/営業時間:平日11:30~21:00(土日は~20:00)/定休日:年末年始のみ
※週刊朝日 2020年11月20日号