教師の暴力や暴言は子どもの心と体を傷つけだけではない。力で人を支配することを学ばせ、子ども同士の序列を変える。教師から“免罪符”を得て、いじめもエスカレートする。
都内の公立中学に通うA君(14)がいじめられるようになったのは、1年生の途中に個人的な事情で担任が交代してからだった。新任の教師は、いじめられていることを訴えても相手の生徒を軽く注意するだけ。ゴミ箱に捨てられた教科書やひっくり返された机を見ても、一緒に直した後、淡々とホームルームを始めることもあったという。
A君は注意欠陥・多動性障害(ADHD)だ。両親によると、コミュニケーションが苦手で、順番通りに物事が進まないと落ち着かなくなることはあるが、授業中は静かに席に座って勉強できるという。障害に応じて指導する「通級指導教室」がある学校への進学も考えたが、小学校時代の友達がいるこの学校を本人が選んだ。
だが、そこで待っていたのがいじめだった。生徒からだけではない。担任もA君と2人きりになる補習時間に、
「死ね、こののろま」
「いじめられたくなければ転校しろ」
「ADHDはいらねぇ」
などと口にした。
一方、担任が“黙認”したいじめはエスカレートした。A君は複数の生徒から日常的に殴られ、別の生徒への悪口や恐喝を強要された。断るとパンツを脱がされ、廊下を歩く女子生徒に下半身を見られた。滋賀・大津のいじめ事件をまねて、校舎の3階から飛び降りろと命令されたこともあったという。
事態を知った両親が校長に話し、加害者とその親を集めて話し合いを重ねたが、校長と担任は暴言やいじめを放置したことを認めず、結局、A君は転校した。父親(45)は、教師がいじめを助長したと断言する。
「いじめを指示していたボス格の生徒も憎いが、教師は止めなかったことで、加害者に免罪符を与えたようなもの。命に危険が及ぶほど集団は尖鋭化し、子どもが犯罪者になるかもしれない状況を教師がつくった」
※AERA 2013年3月11日号