共に過ごした思い出、伝えられなかった気持ち。2020年に亡くなった著名人に送るメッセージをお届けします。今回は10月に亡くなった作曲家・筒美京平さんへ歌手のジュディ・オングさんが改めて別れの言葉を口にした。
■41年経った今も緊張感もって歌う
歌手としての新たな目覚めを教えられ、人生を変えた曲となった「魅せられて」を筒美京平先生にいただいてから、もう41年になります。
空に抜けていくような心地よさがあって、洋楽とも歌謡曲ともつかない不思議な曲ですよね。ひとつひとつの言葉に音符がついていて、地声と裏声を何度も切り替えなければならない難しい歌でもありました。サビの「Wind is~」は地声で歌うとギリシャの太陽、裏声で歌うとエーゲ海の風ということでファルセット(裏声)になりました。後半の「好きな男の」からは、「サンバのノリだからね」とアドバイスをいただきました。
あの特徴的なイントロは、「あれも曲の一部なんだよ」と、歌のメロディーと一体になっていますね。この曲は編曲も筒美先生なのですが、ご自身も編曲を気に入っているとおっしゃっていました。
その年のレコード大賞を受賞しましたが、名前を呼ばれたときには、手足がブルブル震えて(笑)。ステージへの階段をのぼるのにふらついたとき、サッと助けてエスコートしてくださった方がいて。顔を見たら西城秀樹くんでした。終わったあとすぐ、先生に電話をかけたら、「よかったね、よかったね」と何度もおっしゃってくださいました。先生も嬉しそうだったのが、電話ごしに伝わってきました。
先生は物静かで、あまりお外を出歩くタイプではありませんでした。ご自宅をおたずねすると、いろんな曲、おもに洋楽が流れていました。
「魅せられて」は、「大事に歌っていきなさい」と筒美先生に言われました。この曲は酔いしれて歌うとだいたいテンポが遅れてしまうので、40年以上たった今でも、絶対緊張感をもって歌うように心がけています。歌う前には必ず手を合わせるのですが、「じゃあ、がんばってね」という筒美先生の声が、今も聞こえてくるような気がします。
先生には私が10代のころから何曲も作っていただきましたが、「ジュディ、ここはね」と、いつもとても優しい言い方でした。できればもう一曲作っていただき、また優しく教えていただきたかったですね。
(構成:本誌・鮎川哲也、太田サトル、村井重俊/吉川明子)
※週刊朝日 2020年12月25日号