そこに追い打ちをかけたのが「桜を見る会」の問題だった。何しろ菅首相は、7年8カ月もの間、官房長官として安倍前首相を支えてきた立場だ。虚偽答弁を繰り返す安倍前首相をかばう格好で、菅首相も国民を欺き続けてきた責任がある。

 東京地検特捜部は昨年12月24日、この問題で安倍前首相の公設第1秘書を政治資金規正法違反(不記載)の罪で略式起訴し、安倍前首相を不起訴処分にした。これを受け、菅首相は官邸で記者団の取材に応じた。官房長官時代の自らの説明について「私自身も事実と異なる答弁になってしまい、国民に大変申し訳ない」と陳謝したものの、自らの責任については「(安倍前首相に)確認しながら答弁した。それに尽きる」と明言を避けた。

■菅氏と安倍氏の政争

 実は菅首相は、安倍前首相にどのようにけじめをつけさせるかで、極めて難しい政治判断を強いられた。前出の自民党関係者は、この問題は経済対策以外は「脱安倍」路線を貫くことで前政権との違い、独自性を内外に知らしめたい菅首相と、チャンスがあれば安倍前首相の再々登板をもくろむ「安倍・麻生」らとの政争の一面があるとみる。

 それが顕著になったのが議院運営委員会での公開の質疑応答だった。当初、野党は偽証罪が適用される「証人喚問」を求めたが、自民党の森山裕国会対策委員長はかたくなに拒否。前日になって議院運営委員会を報道陣に公開することで与野党が一致した。総理大臣経験者が議院運営委員会で謝罪、弁明する事態は極めて異例だ。

「菅首相にしてみれば、マスコミを入れないという判断をすれば、政権支持率は今以上に下落するのは間違いない。その一方、派閥を持たないため、この桜の問題をきっかけに、安倍氏の出身派閥である細田派、安倍氏に近い麻生派の協力を得られなくなれば、来年度の予算成立を前に政権運営そのものが立ちゆかなくなる」(自民党関係者)

 脱安倍を旗印にする菅政権としてみれば、政権支持率が高ければ、証人喚問もあった可能性はあると、この自民党関係者は語った。

 いずれにしても新年を迎えたからといって「桜疑惑」が収束するわけではない。その上、コロナの感染拡大も続くようであれば、さらに政権支持率は下落するであろう。党内には、菅首相の「次」を考えておく必要がある、との声も出始めた。具体的には河野太郎・行政改革相、そして、野田聖子幹事長代行などだ。今年は衆議院議員が任期満了を迎える。コロナと桜をどう乗り切るかが、菅政権の最大の課題だろう。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年1月11日号より抜粋

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