内野手はセカンドなら町田友潤(常葉菊川→早稲田大中退→ヤマハ)、ショートなら昨年のドラフトで指名された土田龍空(近江→2020年中日3位)、今年のドラフト候補である大塚瑠晏(東海大相模)などが思い浮かぶが、今回はあえてあまり守備が注目されないファーストの選手を取り上げたい。

 そんなファーストの守備で圧倒的なパフォーマンスを見せていたのが田中大二郎(東海大相模→2006年高校生ドラフト巨人3位)だ。特に素晴らしかったのが打球に対する反応と出足の鋭さだ。バントの場面ではあっという間に投手よりも前に出てきて処理し、少し強い打球であれば素早く回転してセカンドでアウトにしてしまう。とにかく守備範囲が普通の一塁手とは全く違い、なぜそこにいるのかというようなプレーも度々あり、柔らかいハンドリング、正確なスローイングも見事だった。

 外野手では、まず思い出されるのが後藤駿太(前橋商→2010年オリックス ドラフト1位)だ。高い運動能力を生かした三拍子揃ったプレーで「上州のイチロー」という異名をとったが、特に目立ったのが守備範囲の広さとスローイングの強さだ。3年夏に出場した甲子園では完全にヒットと思われた打球をダイビングキャッチし、素早く一塁へ返球して併殺も完成させている。

 ただ足が速いだけでなく打球に対する一歩目の反応が素晴らしく、甲子園の外野が広く感じられなかった。また返球は常に低いボールで高く浮くことがなく、バウンドしても勢いが衰えなかった点も強く印象に残っている。

 もう一人外野手で紹介したいのが藤井健平(大阪桐蔭→東海大→NTT西日本)。大阪桐蔭のシートノックは全国でも間違いなくトップで肩の強い選手も多いが、その中でもライトから見せる藤井のボールの勢いは一人だけ際立っていた。

 ライト線の打球を逆シングルで処理した後の難しい体勢からもセカンドへ文字通り矢のようなボールを返すことができる。昨年から社会人に進んでプレーしているが、都市対抗でも変わらず見事なスローイングを見せている。今年のドラフトでも注目を集める選手になりそうだ。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。