クラフトビール界の「顔」が自宅でストーブ用の薪を割る。コロナに負けない活力がみなぎる(撮影/関口達朗)
クラフトビール界の「顔」が自宅でストーブ用の薪を割る。コロナに負けない活力がみなぎる(撮影/関口達朗)
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佐久醸造所内のキッチン付きのスペースで試飲をする。「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとしてエール酵母を使った商品開発に専心してきた(撮影/関口達朗)
佐久醸造所内のキッチン付きのスペースで試飲をする。「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとしてエール酵母を使った商品開発に専心してきた(撮影/関口達朗)

 ヤッホーブルーイング代表取締役社長、井手直行。「よなよなエール」「水曜日のネコ」など、ヤッホーブルーイングのクラフトビールが人気だ。売り上げも前年同月比で2ケタ伸びている。今やクラフトビールを代表するまでになった「よなよなエール」だが、売れ残った大量のビールを排水溝に捨てる日々もあった。会社を引っ張ってきたのは、自らを「てんちょ」と呼ばせる井手直行だ。

【写真】佐久醸造所内のキッチン付きのスペースで試飲をする

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 かんぱーーい 素敵な時間をありがとう 最高! てんちょ(店長)やっぱり泣いているーー 目から心の汗が いい会社だなあ……感激したファンのチャットが映画のエンドロールのように生配信中の動画に流れる。それを見て、「てんちょ」こと井手直行(いでなおゆき)(53)は片手でビールグラスを掲げたまま、もう一度ハンカチで涙をぬぐった。

 これは職人技でつくるクラフトビールの製造会社、ヤッホーブルーイング(以下ヤッホー)が2020年5月30日に開いた「超宴(ちょううたげ)」という4時間に及ぶファンイベントの終幕だ。本来はキャンプ場に1千人を招いて行う予定だったが、コロナ禍でオンラインに切り替えられ、社長の井手は社員とトークショーに出ずっぱりだった。宴が進むにつれて参加者は増え、約5600人に達した。感激家の井手はリアルなイベントで何度も感極まったが、オンラインでも泣いてしまったのである。

 この顧客との濃密な関係が、ヤッホーの「ひとり勝ち」を支えている。大手メーカーが業務用ビールの不振で売り上げを落とし、地ビール約400社も観光不振で苦しむなか、ヤッホーは毎月、前年同月比2ケタの伸びを続ける。巣ごもり需要を刺激し、スーパー、コンビニ、ネット販売の売り上げが絶好調。飲食店向けや輸出の不振を補って余りあるという。しかも定番商品の「よなよなエール」は、発売以来23年間、350ミリリットル=248円の値段や名前、缶のデザインはほとんど変えていない。大手が新商品を矢継ぎ早に出すのとは大違いだ。よなよなブランドは浸透した。

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