国会で答弁する菅義偉首相(c)朝日新聞社
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作家の北原みのりさん
作家の北原みのりさん

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、政府の緊急事態宣言が人々に響かない理由について。

【写真】ポスト菅、大穴は?

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 東京都に緊急事態宣言が出ているが、街の人出はそこまで減っていないという。かくいう私も、今回の緊急事態宣言前後で、生活を変えていない。午後8時以降に外でご飯を食べなければいい程度の“お願い”をされているという理解なので、昼間に買い物に行く、病院に行く、美容院にも行くし、先日は映画館にも行った。さすがに旅行は行かないが、昨年4月からの新習慣、不織布マスクをし、アルコール消毒液と除菌シートを持ち歩き、エレベーターのボタンやドアノブには直接触れず、トイレのふたは閉めてから流し、スーパーで購入した商品のパッケージは消毒し、帰宅すれば上着は玄関で脱ぎ、靴底をアルコール消毒し、くつろぐ前にシャワーを浴び、手洗い・うがいに5分はかける。

 もちろん仕事も変化させた。私の会社は東京、大阪あわせて三つの事務所を持っていたが、昨年中に二つを手放した。残った一つの事務所には大きな手洗いスペースを設置し、空気清浄器を2台買い、机にはアクリル板を立てた。テレワーク助成金を申請し、スタッフ全員にコンピューターを支給し完全テレワークにし(ちなみに助成金はまだ下りてない。時間かかりすぎ)、ミーティングはほぼオンラインだ。しかし悲しいのは、ここまでやっても感染するときは感染するのだろうな……という諦めを私自身が持っていることだ。

 私の周囲では、外食もせず、一人暮らしのテレワークで、スーパーに買い物に行くくらいしかしていない知人が2人感染している。先日は、感染した30代の女性が「周囲に感染させたかも」と思い悩む手紙を残し亡くなっていたことが報道された。感染した人は「いったい何が悪かったのか?」と恐怖と自責の念で苦しんでいるのではないか。

 菅さん、これ以上、私たちは何を自助すればよいのでしょう? 緊張の日常を送り、何が真実なのかわからないような不安のなか、政治に期待できず、感染しても某国会議員のようにすぐに入院できないのだろうと諦めているのが、今この国で暮らす私たちだ。

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現実に目を向けて