入院時の担当医を受診しても「あとはメンタルの問題」と言われた。メンタルクリニックへの受診を勧められ、そこでうつ予防の薬をもらった。だが、その薬を飲んだ後、山田さんは救急車で病院に運ばれてしまう。症状に危機感を覚えた山田さんは、インターネットで症状を調べ続け、ある病名へとたどり着く。それが、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)だった。難病の一種で、体力の極度な消耗、息苦しさ、全身の倦怠感、頭のふらつき、眠気などを合わせた疲労がでるという。そして体の痛み、集中力や記憶力の低下といった症状が6カ月以上続くという。

 実はこの”筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)”は、新型コロナウイルスが原因で発症する可能性があると言われている。アメリカやヨーロッパでは流行当初から注意喚起がなされている難病だった。国立精神・神経医療研究センターの山村隆医師はME/CFSについて、こう説明する。

「新型コロナはME/CFSを引き起こす可能性があります。極度の体力消耗といった身体的負荷、作業後の消耗、認知機能障害、過眠や不眠といった睡眠障害など、いくつもの症状が同時に発生します。これが6カ月以上続くと、ME/CFSの可能性が高い。中には歯ブラシを持つことすら不自由な人がいたり、腕を持ち上げれず、髪の毛を3カ月間洗えない人もいました。症状の一番のポイントは、”集中力や思考力の低下”といった認知機能障害です。本を読んでも集中して読めない。2~3行読んだら疲れてしまい、読んだ内応を忘れてしまう。学校へ行っても教科書を読めないですし、仕事をやられている方は書類をきちんと読めない。頭の中にモヤがかかっていると言われることもあります」

 ME/CFSを発症すると脳にどのような影響があるのか。そもそも原因は何か。山村医師が話す。

「ME/CFSにかかると脳(中枢神経系)に異常をきたします。認知、言語、ワーキングメモリーで重要な役割を果たす右上縦束という大切な部分に異常が出ることはわかっています。ME/CFSが起こる原因は、まだよくわかりません。しかし、体内から排出されていないウイルスに免疫系が過剰に反応して暴走し、脳の中で炎症反応を起こし、症状が起きているのではないでしょうか。ME/CFSは全身の脱力により、発症前の日常生活に戻ることができない病気ですが、周囲の人には患者さんの訴えが理解できず、怠けているのではないかと言われることすらあります。また、病院で受ける血液や脳の検査では異常が出にくく、患者さんによって症状の組み合わせが異なったりもしますため、医師も診断がしにくいのが現状でしょう。ME/CFSに詳しい医師の数も日本では少ないのも問題点のひとつです」

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