「推し」という言葉が一般化し、何ら臆することなくオタクを自称する若者が増えている。AERA 2021年2月8日号に掲載された記事で、アイドルや俳優に傾倒する20代女性たちが試みた新しいかたちの「推し活」に迫った。
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「2020年、世界は未曽有の危機に陥った。かつてないカタストロフィの中、それでも途絶えず紡がれてきた人々の想いがある」──そんな「開会の辞」がモニター画面に躍り、「オタク異種格闘技大會」は始まった。「推し」つまりアイドルなり俳優なり好きな対象の魅力を互いに伝えあう、「布教」の試みだ。昨年12月初旬、オタクを自称する4人の20代女性が集まった。
近年、同じタレントやグループを応援する人々がSNSなどを通じてつながり、一致団結して盛り上げる「ファンダム」が活性化しているが、それとはまた方向性の異なる動きだ。
イベント制作会社に勤める発起人のあさくらさん(ハンドルネーム・25)は、「もともとは、コロナで行きたかったライブや舞台が中止になって、推し活(推しを応援する活動)が思うようにできなかったので、みんなで振り返って慰めあう会がしたいなと思った」という。あさくらさんの友人で社会学系の大学院生のHi−Fiさん(同・24)が、「同じ人を推してるオタクを集めるより、全員推しが違うほうがおもしろいかなと。新しい視点も知ることができるし」と提案、知人に声をかけた。
Hi−Fiさんを除く3人は、この日がほぼ初対面。冒頭の「開会の辞」が終わると、まずは自己紹介しあう。その際にモニターに映し出されたのが「自己紹介シート」。推す対象と、自分の推しスタイルや経緯を端的に説明するものだ。シートに沿ってHi−Fiさんが「出身」、いわばオタク歴を披露する。「2次元も舞台もK−POPも」幅広く関心があるというが、早稲田大学在学中にイギリスに留学、多様な価値観に触れ、マイノリティーとしての生活や英語での課題などで苦しいときに「いちばん助けてくれたのがグローバルなグループ編成のNCT2018(エヌシーティーにせんじゅうはち)だったので、とても感謝しています。いまの推しは3次元のAB6IX(エービーシックス)のデフィくんとウジンくん。推しポイントは全部だけど、一言でまとめると、めちゃくちゃかわいい!」と、クールな見た目に反して熱い語りを展開。ほか、推しはじめたきっかけや好きな作品、「接触」と呼ばれるファンミーティング等への参加の有無などを10分程度でまとめ、「ご清聴ありがとうございました」と締めた。さながらビジネスプレゼンテーションだ。