生前の馬場のイメージが強い市瀬だけに、手紙を読んだ感想を「愛情表現もなかなか熱くて、馬場さんの知られざる一面に驚きました」と笑う。そしてこう続ける。

「僕は晩年の馬場夫妻と親しくさせていただきましたが、おしどり夫婦だったことは間違いない。でも、そこに至るまでのプロセスについては知っているようで知りませんでした。この手紙のやりとりが『こういう流れがあって2人の関係がこういう風に深くなったんだな』ということの裏付けになりました」

■夫を守り「悪役」演じた

 全日本プロレス旗揚げ後、元子は選手のグッズ販売会社を設立し馬場を支えた。だが馬場の死後、運営方針をめぐって全日本の新社長・三沢光晴と対立。「女帝」とも評された元子に好印象を持たないファンも多い。しかし、今回公になる手紙によって、元子のイメージも大きく変わるはずだ。

「外ではみなさんが思ってくださっているように、おばがおじを守っていたというところはあると思います。でも帰ってきたおじがどんと大きい椅子に座って『おーい』と言うと『はーい馬場さんなあに』と一人のカワイイ妻になっていました。おばがそういうギャップを上手に使い分けていたから、飽きの来ないいつまでも新鮮な夫婦でいられたのかなと思います」(緒方)

 全日本プロレスひと筋で今年67歳を迎えたベテランレスラー、渕正信もこう言う。

「男社会の中、馬場さんの評価を落とすわけにいかないと自分が正面に立って、それこそプロレスでいう『悪役』の部分をやったのかもしれないね。同時にグッズのデザインとか、繊細な部分もありました」

 2月4日には「ジャイアント馬場23回忌追善興行」が後楽園ホールで行われ、ゆかりの選手らが記念試合を行う。元子はかつて「全日本プロレスの選手とお客さんが私たちの子ども」と表現していた。この手紙からは、まさに両親の若い頃を垣間見るかのような甘酸っぱさも感じられることだろう。(文中敬称略)(ライター・高崎計三)

AERA 2021年2月8日号

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