女性が震災前に住んでいた地域は津波で浸水したものの、今も人が住めるエリアで、災害公営住宅も建てられた。入居者は以前から同地区に住んでいた人たちで知人も多い。友人も熱心に女性を誘った。だが、女性が終の棲家に選んだのは縁のない地域だった。以前の友人と会うことはもうほとんどない。

 彼女が今の災害公営住宅を選んだ理由はたった一つ。震災で亡くなった一人娘の夫の職場に近いからだ。早くに夫と別れ、震災で娘と孫を亡くした女性にとって、娘婿はほぼ唯一の縁戚だ。

 義理の息子は5年前に再婚し、再婚相手との間に子どももいる。それでも、今も週6回は女性の元に足を運ぶ。

「ごめんなぁ」

 女性は、つい漏らしてしまう。そして、こうも言う。

「『大丈夫、長生きしてけらいん』と言ってくれる。ありがたいな。でも新しい家庭があるし、『いつまで生きてんだ』と思われないか不安になります」

(編集部・川口穣、ジャーナリスト・菅沼栄一郎)

AERA 2021年2月15日号より抜粋

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