林:だからイタリア人はある種疫病に慣れているというか、DNAに組み込まれてるんですね。
内田:理論とかお医者さんの知識だけでは説明がつかないDNAがしみついていて、自分で自分を守らないとよその人も倒してしまうという教訓が中世の時代からあるのでしょうね。記録としては古代ローマから残っていて、非常事態宣言下でも一般市民として何が発信できるかということを、早い時期からやってたんだと思います。
林:今回のコロナでも、テノール歌手の男性が自宅のベランダで「誰も寝てはならぬ」(オペラ「トゥーランドット」の中のアリア)を歌っていたシーンが話題になりましたよね。こういうときにオペラを歌うって、すごくイタリア人らしくて感動しちゃいましたよ。
内田:現地の人の話をよく聞いたりすると、イタリア人ってそういうときに歌ったりすることで「生きてるよ」というアピールをしてるんです。一人暮らしのおばあさんが窓辺に立って鍋をたたいたりする。それは周りに住んでる人に「私は生きてますよ」という信号なんですね。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
内田洋子(うちだ・ようこ)/1959年、兵庫県生まれ。通信社ウーノ・アソシエイツ代表。東京外国語大学イタリア語学科卒業。2011年、『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を受賞。19年、ウンベルト・アニエッリ記念ジャーナリスト賞を受賞。20年、イタリアの「露天商賞」から、外国人として初めて「金の籠賞」を受賞。近著に『サルデーニャの蜜蜂』(小学館)、『イタリアの引き出し』(朝日文庫)、『デカメロン2020』(方丈社)、『十二章のイタリア』(創元ライブラリ)など。
>>【後編/パパラッチに本人がタレコミは「99%」 イタリアのスキャンダル特ダネ事情】へ続く
※週刊朝日 2021年2月19日号より抜粋