北島が力をつけて世界新を出す過程で私が心に留めていたのは「プロセス重視」ということです。結果を出せればなんでもいいというのではなく、トレーニングや合宿、試合のプロセスを大事にしたかった。成績を出したその先、引退後に社会人として日本を代表する人間になってほしい、という思いがありました。

 高い目標を立て、自ら困難な練習に挑み、限界を超える。そのプロセスを経て五輪のメダル獲得など結果を出す。水泳を通して得た自信が、他者への寛容な心や寛大な姿勢につながれば、競技を引退した後のキャリアにも生きるはずです。

 2年連続の五輪イヤーで改めて「プロセス重視」の考え方を選手に伝えています。昨年の五輪を競技生活最後の目標にしてきたベテラン勢が、五輪延期の落ち込みから気持ちを立て直して練習に打ち込む姿を見ると、困難な状況を乗り越えることで、ものの考え方が変わって視野が広がったのかな、と思います。プロセスが充実していれば、それぞれ百点の満足感を味わうことができるのです。

 2月4~7日のジャパンオープン(東京アクアティクスセンター)の結果には一喜一憂せず、大きな目標を見据えて強化を続けていきたい。五輪代表選考会を兼ねた4月の日本選手権に向けて徐々に仕上げのプロセスに入っていきます。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2021年2月19日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?