「くまモン」だけじゃない。コメの世界でも熊本ブランドが王者になった。
決め手は品種改良に加え、農家の栽培スキルの向上だった。
日本穀物検定協会(東京)がコメの味や香りなど6項目を審査した2012年産米の食味ランキングで、「森のくまさん」と「くまさんの力」という熊本県が生んだ2銘柄が、ともに最上級の「特A」にランクされた。「森くま」は審査対象128銘柄のうち、魚沼産コシヒカリなどの横綱級を抑え、初の全国一に輝いた。「くま力」も、検定初参戦で特A入りの快挙だ。
これまで低評価に甘んじていた北海道や九州のコメに注目が集まるなど、時まさに「コメ戦国時代」。12年産の「特A」29点のうち、熊本産は2位に輝いた「ヒノヒカリ」(県城北)を含めると3銘柄あった。
「森くま」と「くま力」の品種改良に携わってきた熊本県農業研究センターの坂梨二郎さんは、こう解釈する。
「高温対策と消費者志向、そして農家との協力体制作り。長年やってきたことが間違いではなかった。『森くま』を世に送り出して15年以上になる。地方で生まれたコメが、全国的に受け入れてもらう水準まで育った」
コメの食味は、夏の昼夜の寒暖差が大きいほど良くなるため、九州の地形や気象の条件は不利だという。施肥や収穫時期などの生産管理も重要だ。これらが不十分で、1980年代には熊本産米の評価が下がってしまった。坂梨さんは当時をこう振り返る。
「どがんかしていいコメを作りたい。熊本の地で、みんなが作りたくなるコメを作り出さなければならなかった」
センターが発足した89年、高温に耐え、食味に優れるコメを作ろうと、「コシヒカリ」と「ヒノヒカリ」を組み合わせた品種改良が始まった。7年後の結果が「森くま」だ。ただ、品種改良だけでは良いコメはできない。肥料をやりすぎてもダメ、刈り入れ時期が遅すぎてもダメ。その品種にあった作り方が生産農家に求められる。熊本県内では、この「生産管理」に対する意識が低かったようだ。
「新潟や山形の産地は毎年、間違いない品質を確保している。コメ作りのレベルが違うと考えていた。ただ、農家を訪ねてはコメの悩みに耳を傾け、よりよい作り方を伝えてきました。それで信頼関係が生まれ、一緒にうまいコメを作ろうという機運が芽生えた」(坂梨さん)
一方、地球温暖化対策もランキングに影響しているようだ。コメの食味を大きく左右する8月下旬の夜間の平均気温が、20年前に比べ約0・7度上昇し、台風などの自然災害も多くなった。これらに対応したのが「くま力」だ。稲の丈を短くし、高温下での発育と成熟を高めるため、「ヒノヒカリ」と「北陸174号」を掛け合わせた。
「くま力」の育種に当たった研究センターの三ツ川昌洋さんは、「熊本の平坦部は九州の中でもいちだんと暑い。8月のお盆以降、夜間の気温が高止まりする傾向が続くようになり、コメの白濁が多くなってしまった。この問題を解決したのが『くま力』です」と話す。
コメ戦国時代をどう生き抜くか。坂梨さんは、こう語った。
「全国一は重たい。農家と共にコメ作りの意欲をもっと高めて、今年も勝負していきたい」
AERA 2013年3月25日号