コロナ禍でテレワークが増え、家族内のスケジュール調整や宅配の管理など目に見えない家事も増えている(撮影/写真部・松永卓也)
コロナ禍でテレワークが増え、家族内のスケジュール調整や宅配の管理など目に見えない家事も増えている(撮影/写真部・松永卓也)
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AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より

 森喜朗氏の女性差別発言で注目されたジェンダー問題。職場以上に家庭でこそ、女性は不当な思いを抱いているという調査結果もある。不平等を感じる根源は家庭のどこにあるのか。今こそ、社会全体で考える好機だ。AERA 2021年3月15日号は「家庭内ジェンダー」を特集。

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*  *  *

 ふーっ。

 電話に出ない夫に送ったメッセージの返信が届いた。スマホの画面には「ごめん、仕事だから無理」の文字。都内に住む会社員の女性(38)はスマホを握ったまま、深いため息をついた。

 大事な会議の直前、保育園から1歳の息子が発熱していると連絡があった。夫にお迎えを頼んだが、拒まれた。「私だって無理だよ……」と泣きそうになりながら、上司や同僚に何度も頭を下げ、職場を後にする。

 夫は、実父のようにソファにふんぞり返って妻に「お茶!」などと命令しないし、毎朝出勤前に子ども2人を保育園に送っていく。家事も育児も「協力的」なほうだと思う。それでも育児に対する当事者意識は低く、「できるだけ」の範疇を超えることはない。「無理」の一言で責任を放棄し、同じフルタイムで働いている自分ばかりが急なお迎えや病院の受診などに対応している。会社の新規プロジェクトに参加したかったが、挑戦する余裕も自信もなく、あきらめた。

 社会のジェンダー意識は確実に変化し、家事育児を分担する男性も珍しくなくなった。

 NHK放送文化研究所が1973年から5年ごとに実施している「日本人の意識」調査では、父親が台所の手伝いや子どものおもりをすることについて、「するのは当然」が2018年は89.4%。この45年間で36.2ポイントも増えた。一方、総務省の社会生活基本調査(16年)では、夫婦と子どものいる共働き世帯で、妻の家事関連時間は1日で4時間54分なのに対し、夫はわずか46分と6分の1以下。家事や育児の負担が女性側に大きく偏っている現状がある。

■家事分担で不当な扱い

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