『リヴェラシオン』セレーナ・ゴメス(EP Review)
『リヴェラシオン』セレーナ・ゴメス(EP Review)

 昨年は3作目のスタジオ・アルバム『レア』を発表し、1st『スターズ・ダンス』(2013年)、2nd『リバイバル』(2015年)に続き3作連続で米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”を制したセレーナ。また、本作からの先行シングル「ルーズ・ユー・トゥ・ラヴ・ミー」も、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で自身初のNo.1獲得。夏にはBLACKPINKとコラボレーションした「アイスクリーム」もスマッシュ・ヒットし、こんなご時世ではあるが好調な一年を締め括った。

 我々にはそう映ったが、本人は「期待していたような評価は得られなかった」とその見事な躍進を厳しく振り返っている。1位を獲得した「ルーズ・ユー・トゥ・ラヴ・ミー」についても、「最高の曲」だと自負するも「まだ充分ではない」と評価し、今後の音楽活動についても「同じように続けられるかは分からない」と意味深なコメントを残している。完璧主義者が故、求める高みはさらに……ということなのだろうか?

 そういった迷いやパンデミックの影響もあってか、約1年ぶりの新作『リヴェラシオン』は方向性を変え自身のルーツともいえるスペイン語を主とした作品に。過去にもザ・シーンとの「Mas」やメキシコ系女性シンガーの同セレーナによる「Bidi Bidi Bom Bom」のカバーなど、スペイン語で披露した曲はあったが、スペイン語の楽曲だけを新録したアルバムは本作が初の試みとなる。これは、メキシコ人の父を持つセレーナにとって長年温めてきたプロジェクトだったのだとか。

 本作のリリースについて、以前ゼイン・ロウの番組に出演した際「こんな世の中になってしまったからこそ、完璧なタイミングだと思っているの。ラテン・ミュージックには人の感情を掻き立てる“何か”があるからね」とコメントしていた。パンデミックにより世界中の人も自身も塞ぎ込んでしまったが、そういった鬱憤を開放するにおいても、キャリアの方向性を見直すという観点においても、たしかに完璧なタイミングだといえる。

 エグゼクティブ・プロデュースを担当したのは、カーディ・Bの「アイ・ライク・イットfeat.バッド・バニー&J.バルヴィン」などを大ヒットさせたタイニー。その他にはタイニーとのコラボレーションもいくつかあるNEON16や、2018年にカーディ・Bとオズナを加えた「Taki Taki」で共演したDJスネイクなどが参加している。

 そのDJスネイクは、ラストを飾る「セルフィッシュ・ラヴ」にフィーチャリング・ゲストとしてもクレジットされている。同曲は、本作の中で最もフロア映えするポップ色強めのラテン・エレクトロで、「Taki Taki」とはまた違うテイスト、インタールードのサックス・プレイがジャジーな異国の情緒漂う意欲作となっている。

 「これで最後」というセレーナらしいタイトルを冠した1stシングル「デ・ウナ・ヴェス」は、その意味に直結した“失恋から立ち直る様”を歌った曲。ソフトなボーカルに穏やかな雰囲気を纏ったインディR&B風味のミディアムで、カミラ・カベロのデビュー作『カミラ』の作風にも近い。花柄のワンピースに花飾り、胸にはハートのペンダントを掲げたセレーナが、狭い部屋から解放される=困難を乗り越える様を描写したミュージック・ビデオも、エキゾチックな仕上がりで単調ながらも見入ってしまう中毒性がある。

 その延長線か、2曲目の「ブスカンド・アモール」では恋愛のしがらみから解放され、女友達と踊り明かすという内容が歌われている。巻き舌のちょっと攻撃性あるボーカル、腰が浮くレゲトンも歌詞にフィットしたサウンド・プロダクション。タイトルをアクセントにした「アディオス」も、同色の“解き放たれた”ダンス・トラック。

 プエルトリコ出身のラッパー、ラウ・アレハンドロがフィーチャーした「バイラ・コンミーゴ」は、燃え滾るレゲトンに両者のボーカルを入れ替わり乗せた情熱的なナンバー。タイトルは「私と踊って」という意味で、魅惑的なコーラスとセクシーなファルセットを絡ませ、フロアに交わる男女の恋物語を見事表現している。ゲストが参加したナンバーでは、同プエルトリコのラッパー=マイク・タワーズとコラボした「ダメロ・ト 」という曲もある。吐息のように酔わせるボーカル・ワークが、自身の代表曲「ハンズ・トゥ・マイセルフ」にも通ずるラテン・トラップで、マイクのアク強めなラップもアクセントになっている。同曲には、前述の「ハンズ・トゥ・マイセルフ」や「グッド・フォー・ユー」などを手掛けたジュリア・マイケルズも、ソングライターとして参加している。

 他曲に比べ華やかさには欠けるが、レゲトンとエレクトロ・ポップを融合した哀愁系のメロウ「ヴィシオ」も、セレーナらしい情趣溢れた傑作。ザラ・ラーソンやデュア・リパの延長線にもある旋律、ピアノの物静かなイントロから徐々に盛り上がる構成が良くできた曲で、セレーナお得意の声による演出も活かされている。

 アルバム・タイトルのリヴェラシオン(Revelacion)とは「隠れていたものを明らかにする」という意味があり、これまでの作品とは音楽的に異なるのも彼女の“隠れていた”本質や自信が表現されたからこそ、付けられたのだろう。行き詰っている時期に一新してラテン・ミュージックにシフトチェンジしたのは正解だったといえる。もちろん、以前のようなポップ・アルバムを再びリリースしてくれるのも楽しみではあるが。

Text: 本家 一成