指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第61回は、「小さな変化が大きな差を生む」。
【写真】2018年アジア大会男子100メートルバタフライで3位に入ったときの小堀勇気選手
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2月から長野県東御市で続けていた準高地での合宿をいったん切り上げて、3月4、5日、東京都シニア春季公認記録会(東京辰巳国際水泳場)に出場しました。練習の成果を確認するために調整をせずに臨んだレースでしたが、萩野公介が男子200メートル背泳ぎで2019年世界選手権銅メダルに相当する1分55秒84をマークするなど、それぞれの選手が手応えをつかんだ大会になりました。
コロナ禍で1年延期となった東京五輪を目指す強化は、前年とは違うアプローチで進めてきました。昨年10~11月、初めて参加したISL(国際リーグ、ハンガリー・ブダペスト)で多くのレースに出場しました。スピードは強化できましたが、試合の連続でウェートトレーニングなどが十分にできなかったので、帰国後に体組成を測定すると筋肉量が落ちていることがわかりました。
筋肉がやせ細った状態で翌年の代表選考会、五輪に向かうのはリスクがある。どこかで一度、体が細くなったデメリットを解消しなければいけない。12月の東御市の準高地合宿から筋力アップを始めました。
例年ならがんがん泳いで、質の高いインターバルトレーニングに挑む時期に、毎日、午前の水中練習の後に約1時間、陸上トレーニングを入れました。体がきつくてしょうがない、と嫌気がさしてもおかしくないような地道な練習を1月まで繰り返しました。
ハードな練習をこなしながら出場した昨年12月の日本選手権、今年1月の北島康介杯、2月のジャパンオープンでしたが、選手たちはある程度の結果を出しました。ジャパンオープン後の東御市の合宿から、筋肉量を維持しながらパワーをつけるように陸上トレーニングを変化させて、泳ぎの質を高める練習を3週間続けて出たのが、東京都シニア春季公認記録会でした。今やっていることの成果がうまく出せたと思います。