サラリーマンが仕事にかかわる出費を節約する方法は限られている。だが、「会社の経費が落ちず、自腹を切ることが多い」という人であれば、今年から、節税できるチャンスが出てきた。「社内会議が英語なので小遣いをやりくりして英会話教室に通っている」「毎週ゴルフ接待があるが会社では経費扱いにならない」――そんな出費が税務上の経費として認められ、控除の対象になるのが「特定支出控除」という制度だ。『なぜ犬神家の相続税は2割増しなのか』(東洋経済新報社)の著者で、公認会計士・税理士の小澤善哉氏の解説。
「特定支出控除自体は昔からの制度ですが、ハードルが高すぎてほとんど誰も使っていませんでした。それが税制改正により、今年の使用分から申請できる最低額が下がったうえに、認められる経費の範囲も広がったため、サラリーマンが使うチャンスが出てきました」
たとえば転勤に伴う引っ越し代や交通費、単身赴任者が家族の元へ帰る旅費などで、会社が負担してくれない分はこの控除の対象となる。さらに、仕事で普段着用しているスーツ、ネクタイ、ワイシャツの代金や、英会話や研修代、本や雑誌などの書籍代、そして接待の飲み代も対象だ。
「昨今多くの会社では交際費が厳しくなっていて、たとえばゴルフやキャバクラなど、高額な出費を強いられているケースも増えています。それらがすべて経費になります」(小澤氏)
ただし、「使いやすくなった」とはいえ、なお高いハードルがある。
一つは控除の対象となる経費の合計額だ。特定支出控除は医療費控除などと同様、使用した金額の合計が一定の基準を超えたものが対象となる。その基準は「給与所得控除の半額を超える支出」になる。金額に換算すると、年収400万円であれば67万円以上、800万円なら100万円以上の支出と、かなり高いのだ。
「英会話教室代などまとまった出費があるときがチャンスです。ただ、経費として認められる範囲が広いので、いろいろと積み上げればこの額を超える可能性はあります」(同)
さらに、これらの支出が仕事に必要な経費であることを会社に認めてもらい、個別に証明書をもらわなければならない。はたして会社は認めてくれるのか。
「認めすぎてしまうと税務署から目をつけられる、と心配する会社もあるかもしれないですが、この控除には、たとえば英会話など、業務に必要なことを社員が自ら勉強しやすくなるという効果もあります。一般論としては、国税庁が出した見解を満たしたものであれば、会社は基本的に認めるはずです」(同)
この制度は今年1月からの経費が対象となる。一度会社に相談したうえで、領収書をコツコツためることから始めてみよう。
※週刊朝日 2013年5月24日号