しかし留学当初の3~4 カ月は、英語が聞き取れない、話せないという壁にぶつかった。

「一日中誰とも話さない日が続いたときには、めちゃくちゃ孤独を感じました。日本にいる母や友だちと毎晩SNSでおしゃべりできたことが救いで、インターネットが発達した時代に留学して本当によかった、って毎日思っていました(笑)」

 もともと鞘師さんは自他ともに認める人見知り。日本にいるころから、話の内容がピンとこなくても聞き返すことができなかったそうだ。

「英語だとなおさら聞き返せなくて、わかったふりをして、それでまちがえて、周囲に迷惑をかけたこともありました」

 自分を変えたいと思って日本を飛び立ったのに、これでは何も変わってないじゃないか。そんな思いが鞘師さんの中に湧き上がってきた。

「わからないなら何度でも聞けばいい、いや、聞かなくちゃいけないんだってことに気づかされました」

■よく使う言葉を書き出し、覚えて使うことが大事

 そこで鞘師さんは、よく使いそうな英文をノートに書き出した。「もう一度話してください」「〇〇に行くには?」「その単語の意味を教えて?」などなど。

「前もって準備をしておけば、とっさに聞き返せるってわかったんです。“What does it mean?”は一日に何回使ったかわからないですね」

 数カ月たったころ、考え込まなくても言葉を返せるようになった。会話が弾むようになると、語学学校での人間関係も広がっていった。

「みんな積極的に話しかけてくれるので、人見知りしている暇もないくらいでした。サウジアラビア出身の子とは、お互いの言葉を教え合いました。アラビア語って巻き舌がすごいんですよね。私も日本語を教えましたよ。『おまえ』とか、ちょっと乱暴な日本語を(笑)」

 鞘師さんは現在、TOEICスコア820点を保持。せっかくの英語力を低下させないためにも米国のニュース番組やYouTubeなど英語圏の動画を積極的に見る時間を作っている。

 目標通りの英語力を身につけた鞘師さん、もう一つの「自分を変えたい」という願いはかなえられたのですか?と聞くと、笑顔でこう答えてくれた。

「正直言って、性格の根本は全然変わらなかったんですが(笑)、行動すれば自分の中の考え方や受け止め方、満足感は変わるんだってことがわかりました。だからきっとこれからも『やりたい』と思ったら、慎重に考えながらも、迷わず前に踏み出していこうと思っています」

◆鞘師里保(さやし・りほ)
1998年広島県生まれ。2011年にモーニング娘。9期としてデビュー。15年に惜しまれながらモーニング娘。を卒業し、ダンスと英語の勉強のため海外留学。20年9月から芸能活動を再開し、活躍の場を広げている。

(文/神 素子)

※『AERA English 2021 Spring & Summer』より

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