作家・アイドルとして活躍する加藤シゲアキさんがAERAに登場。「20代前半の頃は、自分の世界を生きてとがっていた時期もあった。文章を書くようになったことで他者を想像し、周囲を尊重できるようになった」という。AERA 2021年4月19日号から。
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著書『オルタネート』は直木賞にノミネートされ、その後吉川英治文学新人賞を受賞した。作家として飛躍の一年になった。
「自分にとって、しっくりくる選評も必ずしもそうでないものも、すべて引っくるめてモチベーションになります。指摘されたことのなかには、よくわかるな、と思うものもあって、次へ向かうエネルギーになる」
取材を行ったのは、主演舞台の初日を目前に控えた稽古終わり。誰よりも疲れているはずなのに、テンポの良い会話と機知に富んだ受け答えからは、力強さが伝わってきた。
アイドルで、作家。その肩書に今年、「脚本家」が加わる。2015年に上梓した短編「染色」の脚本を自ら手がけ、今年5月に舞台化する。「脚本を書きませんか?」と声がかかり、挑戦することを決めた。
「ものすごく忙しい時期だったのですが、すぐに小説とは違うアプローチがひらめいたんです。原作者の自分だからこそできることだ、と。描写に頼らずセリフだけで物語を展開させていくのは、最初こそ難しさを感じましたが、結果的に小説を書くうえでも生きていくと思います」
昨年上演予定だったが、コロナ禍を受け、書き直した。
「人と人との距離感や空気感が変わってしまったいま、どうすれば時代にあった表現ができるか。一つ一つネジを締め直していくような作業は、楽しくもありました」
思考は柔軟で、発する言葉はどこまでも前向きだ。
「2021年は人生で一番忙しくなりそう」
少し照れくさそうに語ったその声には、喜びと充実感がみなぎっていた。(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2021年4月19日号