実際のところ、1駅違うだけでどれくらい安いのだろうか。ここでは通勤ラッシュが激しい東京周辺に焦点をあて、いくつか例に挙げよう。

 最初に取り上げるのは、東急東横線の武蔵小杉駅(川崎市中原区)。タワーマンションが林立する首都圏屈指の人気エリアだ。特急が止まるため東京・渋谷や横浜へのアクセスがよく、さらにJR南武線・横須賀線・湘南新宿ラインなど多数の路線を使いこなせる。

 駅前には「グランツリー武蔵小杉」「武蔵小杉東急スクエア」といった大規模商業施設がそろう。通勤や生活に便利なため、住宅価格が急騰している。

 不動産専門の調査会社・東京カンテイによると、武蔵小杉駅周辺の中古マンション(70平方メートル換算)の平均価格は6419万円にもなる。ふつうの会社員には荷が重い価格ではないだろうか。

 それが東京から一つ先の元住吉駅だと、4835万円に下がる。平均築年数が異なるので単純比較はできないが、武蔵小杉より1500万円以上も安く手に入れることができる。これなら何とかなるという人が多いのではないだろうか。また、住宅情報サイト「SUUMO」の調べでは、3LDK以上のマンションの賃料は1万円ほど安い。

 駅前には首都圏でも有数の商店街が広がっていて、暮らしやすさは抜群だ。同じ金額を出すなら、武蔵小杉よりも、ひと回り広い住まいが手に入るだろう。リフォームに多少お金がかかるのを覚悟して、在宅勤務用のワークスペースを設置しても、十分にお釣りがきそうだ。

 しかも、渋谷駅までの所要時間は大差がない。武蔵小杉駅は13分で、元住吉駅は17分。たった4分ガマンするだけで、これだけの価格差があるのだから、コロナ禍に対応した「移住先」として、うってつけの場所ではないだろうか。

(住宅ジャーナリスト・山下和之)

AERA 2021年5月31日号より抜粋