
タロットカードで運勢を占い、ポーカー賭博のディーラーでもある「僕」は、ある組織に命じられて資産家の顧問占い師になる。資産家は前任の占い師を含め、何人もの人を殺している危ない男だった。
児童養護施設での「僕」の子供時代、ヨーロッパの錬金術師、魔女狩り、ナチス、オウム真理教など、時空を超えたエピソードを交えて物語は進む。朝日新聞の連載を改稿した長編小説『カード師』(朝日新聞出版/1980円・税込み)だ。
「災害やナチスのように、世界には日常からかけ離れた非現実的なことが、突然起こります。それを小説に書いている最中に新型コロナウイルスが発生し、日常が非日常になりました。新聞連載の読者さんは、現実が小説に入り込んでくる奇妙な経験をしたと思います」
コロナ前に構想していたペストなどの話が予言のようになり、自身も不思議な感覚にとらわれた。資産家の死は決めていたが、死因はコロナ以外には考えられなくなった。
主人公はカードを巧みに操る。占いもポーカーもカードをめくるまで次の展開はわからない。
「人生も同じで、実際にやってみないとわからないことばかり。その『カード』を、めくるべきかどうか。光と影、善悪も表裏一体。カードには人生のあらゆる要素が含まれているんです」
そう考えて自分もポーカーを始めた中村さんは瞬く間にはまってしまった。相手の内面を読み、自分を隠す駆け引きの魔力に引き込まれた。
「自分が強いカードを持っていると、先の展開がわかった状態で相手をコントロールできるから、サディズム的な感覚が刺激されます。占いで先のことが見えているのと同じで、本来は経験できないことですよね」
作家兼プロ・ポーカープレーヤーを目指し、コロナがなければ今頃はラスベガスにいるはずだったと笑う。秘密クラブでのポーカーゲームのシーンは圧巻だ。全財産ばかりか命までかけた勝負から目が離せない。
「面白さだけでいったら、僕がこれまで書いた中でいちばん面白いシーンかもしれないですね」