蝶野正洋さん(本人提供)
蝶野正洋さん(本人提供)

 木村学部長が闘魂注入されたのは17年11月3日、学部の学園祭「日藝祭」でのことだ。実は猪木さんの妻、“ズッコさん”こと田鶴子さん(故人)は日大藝術学部写真学科の出身。写真学科の教員である浅井譲特任教授から田鶴子さん経由で猪木さんにお願いし、日藝祭のトークショーに出てもらったという。

「トークの最後に希望者に闘魂ビンタをするというので、私はいの一番に手を挙げて一発いただきました。ビンタされるなんて高校生のとき以来。うれしくて光栄な瞬間でしたね。イベント後に猪木さん、田鶴子夫人、浅井教授らと食事を共にし、バーにも連れていっていただき、楽しい時間を過ごしました」

 木村学部長は“そのとき”のことをよく思い起こすという。

「ビンタの前に“行くぞ!”“いいか?”と気合を入れてくれるんですが、あれは猪木さん自身が自分に気合を入れていたんじゃないか、まるで自分自身にビンタしているようだったなと思うんです。ビンタをするときの姿勢で、自分はどう生き、どう死ぬかを伝えてくれていたように今では感じています」

 引退後、猪木さんは多くの愛(まな)弟子たちにも闘魂注入ビンタをお見舞いしている。その一人がテレビでもおなじみの蝶野正洋さん(59)だ。20年2月28日、場所は後楽園ホール。この日は試合終了後に猪木さんのデビュー60周年を祝うセレモニーが予告され、会場は超満員だった。

 蝶野さんが裏話を明かしてくれた。

「実はこれ、猪木さんの了承なしに企画しちゃったもので、猪木さんは不機嫌、長州力さんも不機嫌と聞いていた。なのに、入場してくる長州さんがなんかうれしそうにニコニコしている。不吉なものを感じていました(笑)」

 すると長州さんがマイクを取り、「今日は武藤(敬司)と蝶野がぜひ闘魂ビンタをと言っているので、お願いします」と猪木さんに伝える。

■“むちゃぶり”に派手に転がろう

「もうむちゃぶりですよ。武藤さんはまだ現役だからいいですが、オレはもう現役離れてたからね。でもすぐに羽交い締めにされ、まず武藤さんに闘魂注入。自分も覚悟を決めた。年末の特番で、毎年オレが月亭方正くんにビンタするんだけど、彼のように嫌がろうと。そしてたたかれたら派手にリングの外に転がろうと決めた。そのほうがおもしろいだろうって思ったんだよ。たたかれた後に猪木さんと目と目が合ったんだけど、“お前、たたかれ方、わかってるじゃないか”って顔をしてました(笑)」

 たたかれて「猪木さんはビンタが上手だ」と知った蝶野さん。2代目を継ぐつもりはないかと聞くと、笑って「ないです」と即答した。

「オレが初めて方正くんにビンタしたときは素人のたたき方しちゃってね。痛がってたよ。下手なたたき方したら脳震盪起こしちゃうし。イベントでオレがビンタしている写真が報道で出るけど、あれビンタしてないからね。手前で止めてる。オレがビンタするのは方正くんだけにするよ。闘魂ビンタは猪木さん以外にはできません」

「闘魂注入」の思い出話は、これからも語り継がれるに違いない。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2023年1月6-13日合併号

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう