一般科目は、提携先の角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校「N高等学校(N高)」のカリキュラムを用いる。3年間でエンタメのスキルを学びながら、高校卒業資格も取得できる仕組みだ。初年度の学費は64万3千円(週5日コース)で、東京都が調べた私立高校の平均(93万4995円)のおよそ3分の2だ。
多々良さんは昨秋まで地元の県立高校に通っていた。だが人間関係に悩みN高に転入した。もともと俳優に興味があったため、今年4月からWNOHの授業を「併修」すると決めた。
「もしオンラインじゃなかったら、(地元の)高校を卒業するまでは親に許してもらえなかったと思います。このタイミングで開校してくれてめちゃくちゃラッキーです」
コロナ時代の要請に応えるかのようにスタートしたWNOH。実は構想自体は数年前からあったという。ワタナベエンターテインメントの吉田正樹会長(61)は、同校を新設した理由を「突き詰めれば、いつ人生の決定をするかという話なんです」と説明する。
元来、芸能事務所が運営するスクールはすべて“タレント養成所”で、芸能ビジネスに直結する人材を育てることのみを目的としていた。だが、芸能界はもちろん、社会の中で生きていくには、演技力や歌唱力だけではなく、理解力やコミュニケーション能力も欠かせない。そういった総合的なスキルを磨き上げる場として、2004年にワタナベエデュケーショングループを立ち上げた。15年には東京、名古屋、大阪の3都市に対面レッスンと通信制高校を組み合わせた「渡辺高等学院」を開校。他の芸能プロダクションに先がけて高校教育に乗り出した。
■「やってみてから考える」 地方の高校生に新しい進路
以前の芸能界は明確な目標を持って上京し、「食えなくても夢に向かって頑張る」という“覚悟と努力”の価値観を持つ人たちが大勢を占めていた。だが、あらゆるものが多様化した現代を生きる若者にとって、自分がなりたいものをイメージすることは容易ではない。「ちゃんと勉強してみて、初めて自分のしたいことがわかってくる」と吉田会長は語る。
「だから『やってみてから考える』ということでいいんです。ただ、地方の高校生にとっては東京や大阪に出てくるだけでも大きな負担なので、全国どこにいても授業が受けられるオンライン高校が必要だと考えました」
誰もがSNSで手軽に発信できる現代は、年齢の壁すら存在しない。大人だけでなく10代の若者たちも世界に向けてコンテンツを発信している。WNOHもこうした流れを踏まえて「高校生の時から自分の生き方を決めるべきだ」という考えなのだろうか。