でも最初、宣教師役のアンドリュー(・ガーフィールド)くんと読み合わせをしたとき、彼は「オガタはコメディーをやりたいのか」と不機嫌そうだった。でも監督は「これでいい」と。実際に演技したあと、アンドリューが「いやあ、イッセーさんはすごい!」って感嘆していました(笑)。
――役を解釈し、構築する。その作業は役者として出演する際も自身の一人芝居でも「根っこは同じ」という。さまざまな人になりきる術はどう生み出されているのだろう。
当たり前ですが、人はそれぞれ違います。目の大きさも、背の高さも。まずはその違いで区分けをしてそこに肉付けをしていく感じでしょうか。
例えば先日、ドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」で中村倫也くん演じる羽男のお父さん役を演じました。弁護士の羽男は頭がよくて現代の若者の象徴のような存在。そんな若者のお父さんのビジュアルはどうなのか、どういう「音」を使うか、をまず考える。お父さんは裁判官。人間は下っ端なほど相手に上から「音」を浴びせたくなるけど、本当に上の立場にある人はそれをしない。だからこのお父さんは息子と話すとき、もっとフランクな「音」を使うかもしれない……そんなふうに人物像を練っていくんです。
――もともと役者を目指していたわけではない。絵が得意で美大受験を志すも失敗。浪人時代に演劇に出合った。一人芝居で生み出した人物は500人以上だ。
市井の人々を演じていますが、人間観察からネタは生まれません。観察ってちっとも役に立たないんですよ。最初の一人芝居「バーテン」を作るとき、実際に昼間のスナックに行ってバーテンを観察したんです。でも何もおもしろいことがなかった。ただコーヒーを飲んで帰ってきただけ。そのとき「観察じゃないんだ。おもしろいものは自分で構築しないとダメなんだ」とわかりました。
■古希を迎えても意欲は枯れない
――つらかった時期もある。デビュー当時からともに一人芝居を作り上げてきた演出家・森田雄三さんと袂を分かち、フリーになったときだ。