
彼が「もう一人芝居はできない」と言ったんですよ。オレはまだできるんじゃないかなと思ったけど「そうか、じゃあ一回離れよう」と終わりにした。でもその後、ガクッときた。「もう舞台がないんだ」と思うとたまらなくて、でも「じゃあ何をやりたいか」と思っても何も浮かばない。そんなときたまたま夏目漱石を演じる仕事があって、そこから一人芝居「文豪シリーズ」を作り、またはじめることができたんです。森田とはその後一緒に仕事をすることはなく、彼は2018年に亡くなりました。いま思えば彼と一歩一歩築いてきた人生は幸せだったかもと感じます。いま僕はある意味、彼の遺志を継いでいる。何かを託されたという気持ちもある。でもしんねりむっつりに考えないで、明るくパーッとやるのが供養かなと思っていますけど。
――暗いニュースの多い時代にこそ、笑いの大切さを改めて感じるという。
笑うことは一番の力ですからね。どんなにつらいときでも人は笑うことができるし、それが人間です。古希を迎えて肉体的にはいろいろありますよ。腰が痛いとかね。でも創作意欲は枯れないし集中力は逆に増したかもしれない。忘れっぽくなったぶん、枝葉末節はどうでもよくて、やりたいことに集中できるようになりました。
これまでに500人の人生を演じてもそれは氷山の一角。その何十、何百倍も「やろうと思ったのにキモをつかめず捉えきれずにスルリと逃げてしまった」人たちがいるんです。やめとけばいいのにまた「今度こそ」と挑戦してしまう。だから僕の仕事にまだまだ終わりはないんです。
(構成/フリーランス記者・中村千晶)
※週刊朝日 2022年12月16日号