気分が悪かったが、それほど危機感は覚えなかったという。ただ近くにいる人の声が遠くに聞こえていたのは覚えている。

 いずれのケースも、「気づかぬうちに」体調の悪化が進んでいる。これが熱中症の怖いところだ。

 気温だけでなく、湿度や放射熱なども大きな要因となる。前出の相馬さんのように、長時間、炎天下で作業をしていれば熱中症のリスクはおのずと大きくなる。スポーツなど運動となれば発汗量も多くなり、危険度は高まるといえる。

 環境省によると、熱中症による18年夏の救急搬送者は約9万5千人。死者は1581人に上っている。

 夏場の暑い環境下で活動する労働者やアスリートの熱中症対策は重要だ。まずは水分補給が第一だが、細かい氷と液体が混ざったシャーベット状の「アイススラリー」という飲料の活用が注目され始めている。

 氷は、溶ける際に体内の熱を多く吸収することができるため、深部体温を下げたり、上昇を抑制したりするという。

 熱中症に詳しい帝京大学医学部教授の三宅康史さんも「熱中症対策は、深部体温を上げないようにする予防が大切です」と指摘する。

 すでに高校野球サッカー選手らが活用しており、日本スポーツ振興センターも暑熱対策の一つとしてアイススラリーの有効性を説いている。

 国立スポーツ科学センターの「競技者のための暑熱対策ガイドブック」では、「運動中にアイススラリーを摂取した場合、発汗量が抑えられることが報告されています」とし、そのメカニズムについて「胃にある温熱受容器が冷感を感知し、発汗による熱放散を抑制することで、体水分の損失が少なくなり脱水を防ぐことができるためと考えられています」と説明している。

 メーカーも開発に力を入れている。大塚製薬では、深部体温に着目した研究を実施し、商品化が難しいアイススラリーを独自の技術で開発。「ポカリスエット アイススラリー」として発売した。常温保存も可能で、再冷凍してもスラリー状に戻せるのが特徴という。

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