その後は順調に進級。だが、ゼミを選ぶ3年目に転機が訪れた。目指していた予防医学の教授が退職し、予防医学のゼミに進めなくなってしまったのだ。同級生に相談すると「ロボット工学」のゼミを勧められた。想定外ではあったが、勧められるままに希望を出すと、面接で厳しく追及された。何しろプログラミングさえできないのだ。
「でも予防医学とロボット工学は融合できるし、プログラミングについては『私はできないけれど、できる人はいっぱいいるのでその人たちの力を借りればできる』って説得して、ゼミに入れていただきました」
ゼミ時代に制作した高齢者にスクワットを習慣づけさせるためのロボットが、ロボット展で企業の目に留まり、「一緒に研究しよう」と誘われた。それがきっかけとなり、大学院に進学。足腰が弱って動けなくなる「ロコモティブシンドローム」対策になるロボット「ロコピョン」を完成させた。通信制の4年間から通学制の大学院に進み、生活も変わった。地方での仕事を終えるとダッシュで新幹線に飛び乗り、地下鉄や学バスを乗り継ぎ、埼玉のキャンパスに駆け込む日々。ゼミの友人たちとの飲み会にも参加した。
「おつまみに山盛りの唐揚げを頼むような若い人の飲み会でしたが、彼らからしたら母親世代の私を『まいまいさん』と呼んで、分け隔てなく接してくれました」
大学院生活はあっという間に過ぎ、2016年からは博士課程に進んだ。専門は基礎老化学。選んだ道はまた別分野だった。現在は博士課程6年目。東大との共同研究だけでなく、ロコピョンをきっかけに声をかけてくれたAIベンチャーでフェローの業務も行っている。
「勇気を出して大学進学という第一歩に踏み出したことがすべての始まり。一生懸命やっているうちに少しずつできるようになり、自信もついてくる。学ぶことを通じて思わぬ出会いがあり、そこからまた新しい未来が生まれてくる。今振り返ってみると、近いところから一歩ずつ進むことができたことが、ここまで続けられた理由だと思います」
(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日 2021年7月30日号
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