大学院で開発した「ロコピョン」と(撮影/小野田尚武)
大学院で開発した「ロコピョン」と(撮影/小野田尚武)

「それを聞いてからですよ。私も学生の分際なので、タクシーに乗るのをやめました(笑)」

 今では、このようにすっかり研究者生活が身に付いたいとうさん。大学進学を考えたのは、芸能生活25周年を迎えた44歳のときだった。

「いつも周りのお世話になっているばかりだったから、何か恩返しをしたいと思ったときに、大学に行って恩返しのための土台になるものを探したいと思ったのがきっかけでした」

 相談を受けた夫は「やってみたらいい」と即答。「私にできるかしら」と聞くと、「できるよ。だって18歳の子もできるんだから」と言われ、軽い気持ちでチャレンジした。選んだのは興味があった予防医学が学べる早稲田大学人間科学部健康福祉科学科のeスクール(通信教育課程)だった。面接では「芸能人は入学してもすぐにやめるから入れたくない」と言われたが、「絶対頑張ります」とアピールして合格した。

「通学しないで自宅で学べるからと、軽い気持ちだった。でも、毎週日曜日の夜はレポートの締め切りに追われ、しかもeスクールだから相談するクラスメートもいない。孤独でした。すぐに、仕事が忙しいとか体調がよくないなど、レポートを出せない理由ばかり考えてしまう時期がありました。最初の1年は完全に初期の思いを見失いそうになっていましたね」

 学生生活の長い“ブランク”のせいか、学ぶこと自体もすんなりいかなかったという。

「とにかく覚えられなかったんです。授業が終わった瞬間、砂が指の隙間から滑り落ちていくみたいに記憶したことが消えていく。年齢のせいなのか、学問から長い間離れていたからなのかわかりませんが、授業でやったことが身に付かない」

 危機を乗り越えたのは発想の転換だった。あえて土日を「勉強しない日」に決め、毎日決まった時間に勉強するスタイルにしたら、楽になったという。

「勉強する時間をスケジュール化したら、この厄介な授業のレポートをいかにしてクリアするかみたいなゲーム感覚が生まれて、なんか楽しくなってきたんです。いつのまにか、もっと知りたい、もっと学びたいという気持ちになっていました」

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