4年ほど前に訪ねたシャン州のヤッサウ。ここでも国軍と住民の衝突は続いているという
4年ほど前に訪ねたシャン州のヤッサウ。ここでも国軍と住民の衝突は続いているという
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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、混乱が続くミャンマーの現地の様子について。

【写真】バックパッカーの神様

*  *  *

 運営するユーチューブのチャンネルで、定期的にミャンマーの状況を伝えている。そのために現地と連絡をとるのだが、その方法で気を遣う。2月にミャンマー国軍のクーデターが起きてから2ヵ月ほどは、メールでの連絡をやめていた。電話だけにした。

 怖いのはダランと呼ばれる密告者の存在だった。ミャンマー人の密告者ではない。国軍に通じたミャンマー在住の日本人だった。

「怪しい人がふたりいるんです」

 ミャンマー在住日本人が電話口で囁くようにいった。密告者は日本語のホームページやブログ、ツイッター、ユーチューブなどを検索し、クーデターに批判的な内容を掲載しているサイトをチェックする。実際には日本語サイトの大多数が、ミャンマー国軍に抗議するものだ。そのなかから発信者がミャンマー在住の日本人を見つけだし、国軍に通報するわけだ。

 僕に「怪しい人がふたり」と伝えてくれた日本人は、その後、ミャンマーを離れた。いまは連絡がとれない。彼がダランだった可能性もある。

 ミャンマー人によると、主要な国は、必ずといっていいほどダランがいるという。主義主張でダランになったというより、国軍に弱みを握られているか、仕事上の見返りを期待する人が多いという。

 ミャンマー人社会では、クーデターで多くのダランが復活した。国軍に抵抗する市民はこのダランを警戒し、悪質なダランのなかには市民によって殺害される事件も起きている。

「またあの時代に逆戻りですよ」

 長いつきあいになるミャンマー人がそういった。彼は日本に10年ほど暮らした。以前の軍事政権時代にミャンマーに戻り、日系企業で働いていた。

 日本からヤンゴンに帰った彼が、突然、ファックスを送ってきたことがあった。そこにはこう書かれていた。

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危ないので処分します