「電話は盗聴されていますが、ファックスはできません。軍にみつからないように室内アンテナ。これからの連絡はファックスでお願いします」
それから2年ほどがすぎた。ファックス連絡は続いていたが、これが最後……というファックスが届く。
「軍が家に踏み込んで室内アンテナの接収しはじめています。危ないので処分します」
盗聴、密告……国軍は国民の間に疑心暗鬼の種を撒き、連携をとることを阻止してきた。
国軍の得意技である。その時代がまた戻ってくる。国民の国軍への抵抗の根には、常に人を疑わなくてはいけない社会に戻りたくないという思いがある。
7月初旬、ミャンマーに進出したノルウェーの通信会社、テレノールが、携帯電話事業を売却した。利用者は1800万人にのぼる。国軍はテレノールに通信傍受システムの導入を迫っていたという。盗聴のシステムだ。買ったのはレバノンの会社。国軍系携帯会社と共同でミャンマーに通信基地を建設している会社だという。国軍トップの、ミンアウンフラインと関係が深いという噂だ。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。