こんな状況になって、ダイヤモンド・プリンセス号のことを、最近よく考える。海に浮かんだ巨大な船で、適切な医療が行われず亡くなった方もいた。3711人全員のPCR検査がすぐに行われたわけではなく、既に息苦しさを訴えていた75歳の男性は検査もしてもらえずに、高熱が出ても「手一杯」と診療を断られ、1週間後に下船して入院したが一月後に亡くなった話は、何度聞いても胸が痛い。

 あの時からPCR検査を速やかに!との声は強くあったが、政府が集めた専門家たちは「PCR検査を求める人々が病院に大挙して医療崩壊になる」とか「人々がパニックになってしまう」などと言い、熱が出ても4日間は自宅で待機と通院を制し、コロナ対策というより「パニック封じ」に力を入れているように見えた。

 そんなことがずっと続いてきた1年半だった。ダイヤモンド・プリンセス号で夫を亡くされた方の悲しい訴えが、この国にコロナ対策の最初の一歩だったように私は記憶する。そしてその時から、状況は悪化するばかりだ。感染者は船に閉じ込めて出さなければいい、人々がパニックにならないように情報はコントロールすればいい。五輪で盛り上がれば不満も薄まるだろう。日本に暮らす私たちは、一部の「エライ人」をのぞいてみんなダイヤモンド・プリンセス号に乗せられているのかもしれない。

 早く船を下りて、自由な空気を吸って、マスクなしで思い切り飲んで食べておしゃべりして走りたい。こんな時に五輪にお金と人と時間を使う判断をした政治家が舵を取る船は、やっぱり危険だ。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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