ハイ、次の質問。10年前にコロナ禍の2020年はどんな世になると想像していたか、ですか。僕の75歳の時ですね。10年後まで生きる自信はなかったので、今の自分が奇跡のように不思議に思えます。だけど、ここでひとつ面白いお話をしましょう。現在は世界中の人がマスクを装着しています。そしてマスクがファッションアイテムになってマスクに色んな絵や模様がプリントされています。

 1969年といえば今から52年前になりますが、この頃、すでに僕はマスクに大きい口を描いた「作品」を発表していました。そのマスクを僕が装着していた写真(石元泰博撮影・高知県立美術館蔵)を見て下さい。現在このマスクを約700点の人物画に付けた作品をツイッターで毎日発信しています。ツイッターを開いて見て下さい。ヘッヘッヘッ、今の状況を52年前にちゃんと予知していたんです。アートは未来を先取りします。

■瀬戸内寂聴「絵描きの天才は、長生きばかりですものね」

 ヨコオさん

 お元気ですか?

 手紙の冒頭に、先ず、そう書かずにはいられないのは、目下、寂庵は、すっかり病気運にしがみつかれ、全員ダーッとのびています。最初にのびたのが、寂庵では唯一、若い二十代の、いまだ未婚の、かけ値なく美人のP子です。P子は寂庵の看板ムスメ、私の秘書の「まなほ」の妹です。女ばかりの三人姉妹です。三人とも姉妹の中で、自分が一番美人だと信じています。

 長女のA子さんが知的な美人で一番美人だと、私がいうと、まなほが、かっとなって、自分が一番美人だと主張します。A子さんは美人の証拠に、大学を出る間もなく、恋愛結婚して、すでに三人の男の子のママに収っています。

 まなほも十年前から寂庵に来て私の秘書になり、寂庵の美人秘書と名をあげて、先年結婚して、今、一歳の男の子の母親になって、今も寂庵へつとめつづけています。

 P子は歌がうまくて、歌手になったら成功するのにと私がやきもきしているのに、も一つ気が弱くて、寂庵へ来て、まなほにこき使われています。どうして恋人の一人や二人ができないのかと私がイラつくと、まなほとふたりで「出逢いのチャンスのない世代なんですよ」と、それすらわからず、よく小説が書けるよと、バカにした表情をしています。

暮らしとモノ班 for promotion
賃貸住宅でも大丈夫!?憧れの”壁掛け棚”を自分の部屋につけてみた
次のページ