かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな人たちを追った短期集中連載「起業は巡る」。第1シリーズ最終回は、エンジェル投資家・小笠原治(50)と孫泰蔵(48)の対談。AERA 2021年9月20日号の記事の1回目。
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連載に登場した4人の後ろには一人の男がいる。ベンチャー投資家の小笠原治だ。1998年に「さくらインターネット」の立ち上げに関わり、2011年に投資家に転じた。13年には同じく起業家から投資家に転じた孫泰蔵とともに投資会社「ABBALab(アバラボ)」を立ち上げた。次の世代へバトンを渡す二人が熱く語る。
──取材した4人とも個性的でした。小笠原さんはどんな基準で投資先を選んでいますか。
小笠原:僕がやっているのは、最も初期段階のシード(種)への投資です。何の実績もないベンチャーに投資するので「エンジェル」と呼ばれることも。起業家としては幼稚園児の段階。子供って「何がしたいの?」と聞くと「ピアニストになりたい」「野球選手になりたい」と目をキラキラさせて答えるわけです。目標に至るまでの精緻(せいち)な計画なんてありません。だから事業計画書なんて読んでも無駄です。
ほとんどの起業家は壁に当たるたびにピボット(方向転換)を繰り返して、思いもよらぬ方向に成長していきます。これまでの投資経験で分かったのは、「どうしてもコレがやりたい」と言う子供みたいな人の方が成功したときに大きくなる。僕は「動機の人」と呼んでいます。
逆にお金もうけが上手で動機が弱い人は「ロジックの人」「効率の人」です。答えがないと耐えられないので、ピンチになると心が折れそうになる。多少成功しても大当たりはしません。金融機関系のベンチャーファンドは少し大きくなった「成績の良い小学生」に投資する傾向がありますが、僕は目をキラキラさせているシード段階の起業家に惜しみなく投資するのが自分の役割だと思っています。