「普通絵本は、主人公が表紙の中央にどーんといるものが多いんです(笑)。僕はあえて最初の数ページは、どの子が主人公なのかなかなかわからないようにしました。正解をこれですって言ってしまうと、そこからそれ以上広がらなくなってしまう。いろんな捉え方があると思うし、それは読んでいる方の自由だと思っているので」
■自分をほめてあげた
本書は主人公のゾウがロードバイクの大会で事故に遭い、再び立ち上がるまでを描いた物語だ。
「主人公のボッチャの名前はパラリンピック競技の『ボッチャ』から名づけました。ボッチャは重度障碍者の僕でも参加できるスポーツ。競技で使用する長いスロープは、まるでゾウの鼻のようなんです。僕自身も背も高くて大きな身体を持っていますしね」
この夏、滝川さんはふたつの悲願を成し遂げた。ひとつは、この絵本発売。そうしてもうひとつは、東京2020パラリンピック開会式に映像出演し、管制塔から全体に号令を出すクルー役として始まりのホイッスルを鳴らすという大役を果たしたことだ。どちらも所属事務所の力を借りず、自ら働きかけて手に入れたものだった。
「自分はただケガしただけで特に何かを努力して成し遂げたわけでもない。誇れるものがないのに、『滝川さんはすごい。勇気をもらいました』とか言っていただいていました。それは嬉しいけれども自分で努力をして、自分の力で何かを成し遂げたかった。その一つが絵本だったんです。自分で出版社に電話をかけ、何社も回りました。ダメ出しすらも自分のプラスになったと思います。ようやくこの4年間ではじめて俺、頑張ったなって。アトランタ五輪の時の有森裕子選手の言葉ではないけど自分をほめてあげました(笑)」
(編集部・三島恵美子)
※AERA 2021年9月20日号