俳優の滝川英治さんは撮影中の事故が原因で現在は車いす生活を送っている。その滝川さんが絵本を作り上げた。AERA 2021年9月20日号では、今までにない発想から生まれた滝川英治さんの絵本『ボッチャの大きなりんごの木』制作までの過程を取材した。
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ドラマ撮影中の自転車事故で俳優の滝川英治さん(42)が脊髄損傷を負ったのは2017年のことだった。
車いす生活となるもリハビリに励み、この夏、『ボッチャの大きなりんごの木』(朝日新聞出版)で絵本作家デビューを果たした。
手足の自由が利かない滝川さんが口にペンをくわえて携帯を操作するようになったのは、事故から半年後のこと。
■主人公がわからない
「一日中なにもしていないと、つらいことや苦しいことばかり考えてしまう。はじめは気をまぎらわすために看護師さんの似顔絵や聞こえてくるセミの声を聞いて、セミの絵を描いたりしていました。ある時、天井の染みが犬のダルメシアンの柄に見えて、そのダルメシアンが僕を空から見守ってくれているような気がしたんです。そんなきっかけから物語も考えるようになりました。最初は自分の心を落ち着かせるために絵や物語を作っていたのですが、結果的にそういう時間が自分の生きがいになっていたんです」
物づくりに没頭することで、つらい時間も忘れられることに気づいた滝川さんは、その思いを絵本にして子どもたちに伝えたいと決意する。以来、何百という絵本を読み漁った。『100万回生きたねこ』『介助犬レスキューとジェシカ』『さっちゃんのまほうのて』──数々の滝川さんの心を震わせた絵本たち。
「どれも素晴らしい作品です。でも僕は、それを参考に絵本を作ろうとは思わなくて、今までにない絵本を作りたいと思いました。絵本はこうでないといけないよというのをとっぱらいたかったのです」
『ボッチャの大きなりんごの木』の表紙は、カラフルな色彩にあふれ、たくさんの動物たちがこれでもかと描かれている。