
陸上自衛隊在職中に性被害を受けた五ノ井里奈さん。性被害の告発に踏み切った経緯、加害者4人に謝罪された後の心境を語ってくれた。AERA 2022年11月21日号の記事を紹介する。
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2021年8月、訓練中の宴会で性被害に遭いました。それまでも日常的にセクハラを受けていたこともあり、限界でした。上司の中隊長に「帰りたい」と相談すると「訓練は訓練だ」。母が倒れたことにして、ようやく抜け出すことができました。
所属していた駐屯地ではセクハラはコミュニケーションのひとつとされていました。一般社会では明らかにアウトなことがセーフになる。誰もが完全に麻痺していました。
被害後、自殺が頭をよぎったこともあります。でも、やっぱり死にたくなかった。今年6月に退職し、告発することを決意しました。
一番の目的は事実を認めて、直接謝罪してもらうこと。そして、再発防止に取り組んでもらうこと。そのために顔と実名を出すことにしました。リスクは十分覚悟していましたが、脅迫や誹謗中傷は想定以上でした。売名行為でもなければ、お金が欲しいわけでもないのに、です。

10月17日、加害者4人から直接謝罪を受けました。本心はわかりませんが、防衛省は懲戒処分をする方針ですし、それなりに誠意ある謝罪だったと思います。そう思わないと前に進めない。
もちろん私の傷は消えません。今もよく夢に4人の顔が出てくるし、満員電車など人と触れる場所が怖い。「被害者」のレッテルを貼られ、笑うことすら許されないような視線も感じます。これから恋愛や結婚をできるのかな。そんな不安も大きいです。でも謝罪を「区切り」にして、本来の天然で人を笑わせることが大好きな自分に戻り、生きていきたいと思っています。
防衛省はハラスメントに関する特別防衛監察中です。その結果が解決に結びつくよう有識者会議で話し合いをしてほしい。
また、私の性被害については9月に検察審査会が不起訴不当と議決しています。これを受けた検察の判断も待っています。
小学5年生の時、東日本大震災で被災し、知り合った女性自衛官の優しさに救われました。自衛隊に恨みはありません。感謝しているからこそ、いま変わってほしいと願っています。
(構成/編集部・古田真梨子)
※AERA 2022年11月21日号

